人権教育関係者の研修会の一場面。スクリーンに映っているのは昨年8月、被差別部落出身者の職場に届けられた手紙の画像=佐賀市文化会館

■実態調査、見通し立たず

 部落差別の解消を「行政の責務」と明示した部落差別解消推進法の施行から8カ月がたつ。「現在もなお部落差別が存在することは、憲法の理念からも許されない」として、教育啓発や実態調査の実施を求めているが、国や佐賀県内の自治体の動きは鈍い。インターネット上に悪質な書き込みが横行するなど新たな問題にも直面しており、行政の積極的な取り組みを望む声が上がっている。

 刃物が入った封筒や、被差別部落を中傷する手紙やネット上の書き込みがスクリーンに次々と映し出された。同和問題啓発強調月間の8月下旬、佐賀市で開かれた九州地区の人権教育関係者研修会。部落解放同盟福岡県連合会の福永謙二さんは講演で「部落差別は近年ますます悪質化、陰湿化している」と訴えた。

 同和問題(部落問題)を巡っては、1969年に施行された国の特別措置法が「同和地区の生活改善」を主眼に事業を行い、一定の成果を挙げたとして2002年に失効した。その後は各自治体が独自に取り組んできたが、佐賀部落解放研究所の中村久子事務局長は「法律がなくなったことで差別が解決したという誤解が生まれた」と指摘する。

 研究所などが09年、県内の解放団体の関係者約300世帯を対象に生活実態調査を実施したところ、進学や就業、収入面で県平均との格差は法失効後、縮まっていなかった。心理的差別も根強く、行政などに被差別部落の所在を問い合わせる電話や、賤称(せんしょう)語を使用するケースが絶えない。

 昨年は部落差別解消推進法や障害者差別解消法、ヘイトスピーチ(憎悪表現)対策法と、人権に関する法律が相次いで施行された。ただ、いずれも罰則はなく、実効性を持たせるには法の周知を含めた具体的な取り組みが必要になる。

 部落差別解消推進法が行政に求める施策の中で、運動側が特に重視するのは実態調査だ。国による全国的な調査は1993年、県単独では2002年を最後に実施されておらず、適切な対策を打つためにも現状把握が重要だと主張する。

 ただ、この法を巡っては共産党などから「解決に向かっている部落差別を逆に固定化させる」と反対意見が出たため、「教育啓発や実態調査により新たな差別を生むことがないよう留意する」との付帯決議が添えられた。このため調査に向けた動きは慎重で、法務省は「調査内容を検討している段階で、実施時期の見通しは立っていない」、県人権・同和対策課も「協力する立場なので独自に動くことはない」と話す。

 中村さんは「付帯決議の内容自体が『寝た子を起こすな』の考えと通底している。こうした消極的な姿勢では差別解消は難しい。行政が牽引(けんいん)役になって、差別を絶対に許さない社会をつくり上げていかないと」と強調する。

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