昭和初期、読了すれば、その道の通になれることを売りにした「通叢書(つうそうしょ)」というシリーズ本があった。その一冊の『すし通』は昭和5年に出版され、マグロ鮨(ずし)の今昔話が載っている◆昔は上等な魚とされていなかったマグロだが、江戸後期から鮨ネタとして親しまれ、舌にとろけそうなトロは、既に昭和初期には大いにもてはやされていた。華族の奥様や女学生も「トロはおいしいわね」と言い、下町の子が「おとっちゃん十銭くんな、トロを食うんだから」という会話を交わすほどだったらしい◆脂っこいトロが受け始めたのは案外、近年のことでもないわけだ。中でも一番人気の太平洋クロマグロ(本マグロ)は、個体数の枯渇が案じられ、国際ルールで小型魚の国内漁獲量が年間で決められている。日本がその枠を超えたと報じられた。規制導入2年目にしてピンチである◆佐賀でも玄海地区で揚がっており、昨年から例年になく豊漁だった。他の魚を捕る網に紛れる「混獲」も多いというが、日本は世界一の漁獲・消費国として、資源の管理に厳格な欧米からの風圧が強まりそうだ◆資源を守ることは大事で、対策をとれば増えると分かっている。もし何もしなければ、本マグロを、特にトロをますます高嶺(たかね)の花へと押し上げる。財布を気にしながらの鮨となれば、とても寂しいことだ。(章)

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