九州大大学院准教授丸谷 浩介さん

■集団重視への流れ懸念

 憲法は13条の「幸福追求権」や25条の「生存権」を根拠に、個人が尊厳をもって生きることを保障している。社会のセーフティーネット(安全網)にも反映されてきたが、個人よりも集団の利益を重視するような改憲論議が進むことを心配する声がある。九州大学大学院准教授の丸谷浩介さん(45)=社会保障法=に、労働に絡む問題を中心に受け止め方を尋ねた。

 <憲法は個人の権利を守るため、社会保障の実施を国に義務づけている。時代とともに、求められる施策は変化してきている>

 「この70年で労働施策は大きく変わりましたね。国のセーフティーネットは当初、生存権に基づき、失業したら生活費を支給する失業保険法が主だった」

 「再就職せずに失業保険に滞留する人が増えたために1974年、現役労働者や事業主も対象にした雇用保険法に変わりました。生存権に加え、労働権を踏まえた施策が具体化された。これは次第に拡充され、90年代以降は、働く女性の出産・育児保障、定年を過ぎても働きたい高齢者への対応など、幸福追求権も踏まえられるようになった」

 <国の施策の不十分さを指摘する意見が絶えない一方で、『手厚すぎる』との声も依然としてある。『生活保護たたき』に象徴されるように貧困を自己責任と捉え、一定の権利制限もやむを得ないという主張だ>

 「まず、保障されている水準が高いか低いかということですが、全く高くない。下がっている現実もある」

 「生活保護の基準が下がると、私たちの生活も変わる。間接的に最低賃金や収入の減額などマイナスに影響しかねない。生活保護を下げるから最低賃金を上げなくてもいいという議論にも陥りやすい。『生活保護を受けたら自由を制限すべき』という主張もたまに出てくるけれど、これは前近代的な考え方。生存権を保障しながら自由権を制限することなどあり得ない」

 <幸福追求権を定めた13条を巡っては自民党の改憲草案を引き合いに、個人より集団が重視されかねない状況を懸念する声がある>

 「13条の『個人』という表現が、草案では『人』に変更されていた。『個人』という言葉が、それぞれが異なる存在であるという多様性を認めているのに対し、『人』という表現は同質性を持った者の集まりを表し、皆が同じであることを志向している。『個人』というキーワードは絶対に残さないといけない」

 <現行憲法は労働者の権利擁護に大きな役割を果たしてきたが、現場には新たな課題も横たわる>

 「団結権など労働三権がリアティー(現実感)を持っていたのは1980年代ごろまで。労使間の紛争で労働者が団結して交渉するといったことが機能しなくなりつつある。組合の組織率が低下し、非正規雇用が増えたからです。労働者の権利を守るために組合が再び頑張るのか、組合に変わる何かが必要なのか、考える時期かもしれない」

 まるたに・こうすけ 1971年、長崎県生まれ。西九州大、佐賀大経済学部を経て、2016年から九州大学大学院法学研究院准教授。佐賀県労働委員会公益委員、全国健康保健協会佐賀支部評議会議長なども務めている。福岡県糸島市。

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