負けが込むと無口になる人がいる。文芸春秋を立ち上げた作家の菊池寛はその典型で、麻雀中に追い込まれるとすっかりだんまり。名前の「きくちかん」の文字を入れ替えて「くちきかん」と揶揄(やゆ)された。きょうは菊池の命日である◆同じ作家でもこちらは少々分が悪くたって、言いたい放題で意気盛ん。石原慎太郎元都知事が「果たし合いに出かけるサムライの気持ち」「座して死を待つつもりはない」と記者会見に臨み、「混迷の責任は小池さんにある。専門家が安全だと保証しているのに」と豊洲移転を決めない小池知事に切りかかった◆菊池の名作『父帰る』は、家族を捨てた父親が落ちぶれて20年ぶりに帰ってくる。「老先の長いこともない者やけに皆よう頼むぜ」と粋がるが、長男は「俺にお父さんがあるとしたら、それは俺を子供の時から苦しめ抜いた敵じゃ」。父親からは力が消えて「自分の身体ぐらい始末のつかんことはないわ」◆石原氏の会見はかつての部下への責任転嫁に終始した。一時代を風靡した作家にしては準備した“シナリオ”は見せ場に乏しく、寂しい限りだった。次は都議会の百条委員会が待ち構える◆『父帰る』では再び出て行った父親を、子どもたちが狂ったように追う。肉親の愛に心動かされるが、さて、古巣へ呼び戻される石原氏はどうふるまうか。(史)

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