「まぼろしの邪馬台国」4104円(税込み)、DVD発売中、発売元:東映ビデオ

「まぼろしの邪馬台国」のクライマックスシーンが撮影された南島原市深江町。主人公のモデルとなった宮﨑康平さんも島原半島の風景に邪馬台国を重ね合わせたに違いない=雲仙市の仁田峠循環道路展望台から撮影

映画のモデルとなった宮崎康平さんと妻和子さん(1965年ごろ撮影、和子さん提供)

MEMORY 撮影で使ったバナナの木 今も

地図

■古代のロマンと夫婦愛

 邪馬台国が本県南部一帯にあったとする主張で、論争に一石を投じた宮崎康平さん(1917~80年)。その著作と同名の映画「まぼろしの邪馬台国」は、古代の女王卑弥呼ひみこの墓を突き止めようとする盲目の康平さんと、支え続けた妻和子さんをモデルに作られた。堤幸彦監督が映画の完成直後、「康平さんと和子さんは強くて明るくて元気な夫婦。二人の印象を素直に映画にした」と話した通り、困難の中でも前向きに生きる夫婦を、竹中直人と吉永小百合が演じた。

 本県ロケは2008年2月から3月にかけ、島原半島や長崎市などであった。古い石垣が並ぶ島原市の武家屋敷通りでは、夫婦が卑弥呼の墓を探す旅の一シーンとして雪の中を寄り添いながら歩く様子が描かれた。通りに面した民家の庭に降雪機を設置した大掛かりな撮影だったという。

 近くにある「さかきばら郷土史料館」には、映画の中で、盲目の康平が地形を把握できるようにと和子が作った立体地図のモデルが展示されている。管理する榊原幸子さん(81)は、撮影前に吉永が訪れ、食い入るように見ていたのが印象に残っている。

 卑弥呼の墓と推測される古墳を発見するクライマックスシーンの撮影地は平成新山と有明海に挟まれた南島原市深江町。斜面に沿って整備された田畑が並ぶ農村地帯だ。日差しはまだ夏を感じさせるが、田んぼの稲は緑色の穂を出し、秋の足音を伝えていた。

 同市商工観光課によると、制作者側から「山と海が見える古墳のような地形」と要望があり、この場所を紹介した。当時は農地整備工事の途中で、土を積み上げた場所があり、工事を延期してもらったという。

 南島原市有家町の酒造会社社長、長池孜さん(68)はエキストラとしてロケに参加。堤監督や竹中、吉永と会話する機会はなかったが、若い頃からの憧れだった吉永が昼食の際、お茶をついでくれたことに感激した。「若くてきれいだった」と今も仕事場に映画のポスターを貼り、思い出を大切にしている。

 映画の中で康平は古墳を発掘しながら、邪馬台国と卑弥呼の姿を想像して息絶える。モデルとなった康平さんもまた、記憶の中にある古里の風景に邪馬台国で生きた人たちの営みを重ね合わせたに違いない。

 吉永が演じた和子のモデルとなった宮崎和子さん(87)は今も島原市で暮らす。夫との邪馬台国探しの旅について「楽しくもあり?られてつらいこともあった」と振り返り、こう続けた。「康平にとって、私が欠くべからざる人間であったことが一番の喜び」

 夫婦が歩いた大地には、古代のロマンと愛情があふれている。

■「まぼろしの邪馬台国」ストーリー

 1956(昭和31)年、ラジオ声優の和子は、番組で知り合った盲目の郷土史家で島原鉄道社長の宮崎康平に島原に来るよう勧められる。バスガイド養成の講師を任せられるが、経営が厳しくなり、康平は解任。和子も島原を離れようとするがプロポーズされ、生活を共にし始める。

 退職を機に、邪馬台国探しに一層情熱を傾ける康平。和子は一緒に邪馬台国の場所を探す旅へ。康平は8年間にわたる研究成果を記した著作が文学賞を受けても満足せず、邪馬台国の女王卑弥呼の墓を探すと宣言する。

 出演はほかに江守徹、大杉漣、宮崎香蓮ら。カラー117分。

■MEMORY

撮影で使ったバナナの木 今も

 映画の中で康平が、著作「まぼろしの邪馬台国」で文学賞を受けた後、バナナ園を開くシーンの撮影は島原市安中地区の温室で行われた。撮影後、バナナの木や苗は市内の農家や学校などに配布された。

 同市北安徳町の農業、大場昭英さん(42)は撮影のあった温室の隣に畑を持ち、堤幸彦監督らスタッフが映像をチェックするテントに場所を提供。お礼としてバナナの苗1本を譲り受け、育て始めた。

 もらった当時、1メートルほどの高さしかなかったバナナは3年ほどして初めて実を付けた。今では3.5メートルほどの木が計50本程度育っている。これまでは親戚や知人に贈っていたが、ことしは収穫量が多く、初めて長崎市の卸売市場に出荷した。「まぼろしの邪馬台国」ブランドとして販売するには数量が少ないが、「大切に育てていきたい」と大場さん。

 撮影が行われた温室の前にあった観光客向けの看板は、既に撤去されたという。時間の経過とともに世間の記憶が薄れる中、出荷されるバナナは当時のことを今に伝えている。

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