『徒然草』に勝負事の心得がある。「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり」。勝とうとするのではなく、負けまいと打てと説く◆吉田兼好が尋ねた相手は双六(すごろく)の名人で、双六といっても運任せの現代版とは違い、戦略性が物を言う対戦型ゲームだったらしい。名人は少しでも遅く負ける手を選べとアドバイスし、兼好は「国を保とうとする道もまた同じ」と評している◆まずは地道に経済力をつけ、人々の生活を豊かにする。それが、国を治める“負けない手”だが、こちらは亡国への悪手か。北朝鮮がまた弾道ミサイルを発射した。北海道・襟裳岬を越えて2700キロも飛び、日本列島が射程にすっぽりと覆われている事実に慄然(りつぜん)とする◆事前に予告したグアムとまったく違う方角だったのは、これ以上、米国を刺激したら何が起こるか見通せないと尻込みしたからだろう。国際社会の圧力がどれほどきいたか分からないが、日本としても、さらに外交力を発揮すべき局面が続く◆兼好は「負けが込み、残った物すべてを賭けようとする時は、相手になってはならぬ」と諭す。流れが変わる危うさがあるからだ。「その潮時を知るのが、うまいばくちと言うのだ」。暴発させず、負けに追い込む。まさに駆け引きの極意だろう。9月9日、北朝鮮は建国記念日を迎えるが、さて…。(史)

このエントリーをはてなブックマークに追加