虫の音、澄んだ空気、抜ける風。秋の山里は美しい=唐津市北波多

 酒屋さんの店頭が秋仕様のお酒やビールでにぎやかだ。

 ここのところ30度を超す日もあるが、今夏の酷暑の比ではない。日も短くなり、あまり四季を感じることがない拙宅近辺もなんとなく秋の気配がするようになってきた。

 そんな折、歩道の植え込みから虫の音が聞こえてきた。コオロギらしき、その凛(りん)としながらも切ない旋律は僕の「秋感」を決定的なものとした。それがきっかけで「あること」を思い出した。

 北波多・岸岳山麓にある飯洞甕(はんどうがめ)古窯跡。唐津焼発祥とされる地、である。

 数年前の、ちょうどこのタイミングに友人を案内したことがあった。焼き物好きの友人は車を降りるや否や古窯跡に歩を進めた。何気にドアをあけた僕は凄(すさ)まじい虫の音に圧倒された。さながら音の壁、だ。「ガチャガチャ」と鳴く、クツワムシ、キリギリスの「ギーッ、チョン」までは判別できたが、それ以外は皆目見当がつかなかった。

 数多の虫の音が辺り一帯を支配し、澄んだ空気、鮎帰川のせせらぎ、稗田の里山を抜ける風…。それらが相まって、得も言えぬハーモニーをつくり出し、さながらオーケストラのよう、であった。最初は面を喰(く)らったが徐々にそれは心地良いものに変わっていった。

 年を経て僕は同じような「虫のオーケストラ」を佐里で、相知で、そして厳木で体験することに。東京都下有数の自然が残る多摩丘陵に遊んだ子どもの頃。当時の記憶を辿(たど)ってもこれらの足下にも及ばない。

 秋の深まりと共に虫の種も変わり、オーケストラの曲目も変わるのだろう。一度で良い。そんな虫の音に抱かれながら友人たちと秋酒を酌み交わしたいものだ。

 むらた・まさとし 東京都出身、世田谷区在住。ポニーキャニオン勤務。唐津に魅せられ、その魅力を新聞、雑誌、ブログを通じて発信している。49歳。

カット書字は牧山桂子さん

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