テロの標的になって崩れたニューヨークの世界貿易センタービル・ツインタワー。絵本『綱渡りの男』(小峰書店)は1974年、その間を渡したワイヤーの上を歩いた一人の大道芸人の実話がもとになっている◆命綱もなく、バランスの棒だけ持って一歩を踏み出す心持ちはどうだったろう。400メートルの高さから市中を見下ろす。「二つのタワーが呼吸しているみたいだ」。無謀な夢にとりつかれた男の冒険譚(たん)である◆危うい均衡を保ちながらのギリギリの状況-。社会にのしかかる大きな問題の一つ、「老老介護」はこの綱渡りのようでもある。介護は24時間だ。時には睡眠を奪われたり、食事すらままならず、自由度が低くなる。踏み外さないようにするだけで精いっぱいである◆夫婦は同じように年をとっていく。気力、体力がある若い世代の介護と、老いてからするそれとは、かかる負担が違う。この夫婦には何が起きていたのだろう。鹿島市に住む69歳の夫が71歳の妻を手に掛け、命を奪ったとして逮捕された。妻は下半身が不自由だったという。大阪から転居して間もなかったが、行政の手は届いていたのに…◆背景は一つ一つつまびらかになるだろうが、どうにかできなかったろうか。そんな思いがどうしようもなく湧いてくる。「命綱」は、いくつもつけることができたはずだ。(章)

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