虫の音(ね)が涼やかで、すっかり秋めいてきた。あすは中秋の名月(十五夜)である。月の満ち欠けとは若干のズレがあるので、今年は17日が満月になる◆昔、お月見には縁側で団子やススキ、とれたての野菜を月の神さまにお供えし、刈り入れ間近の稲の豊作を祈った。今、縁側も少なくなり、こんな風雅な習慣がどこまで残っているだろうか。天気予報では、あいにくお月さまが顔を出しそうにないのが気がかりだが◆月に神秘を感じる向きもあるようだ。「孤高の画家」として評価が高まる久留米市出身の画家、高島野十郎(たかしまやじゅうろう)に月を描いた連作がある。福岡県筑後市の九州芸文館で開催中の没後40年を記念した展覧会(22日まで)にも、10点ほどの月の絵が展示されている。彼にとっての月はどんな意味を持ったのだろうか◆最初は月夜に浮かび上がる風景であったものが、やがて風景が退き、満月だけ描くようになった。「月ではなく闇を描きたかった」という。仏教に帰依し、思考の行きつく先が「慈悲」だった。闇を照らす月灯(あか)りが慈しみの心と重なったのだろうか。独学で絵を学び、画壇との縁を絶ち、妻帯もせずに求道者のように静物や風景画を描き続けた◆写実を超えた一連の作品から、しばらく目を離すことができなかった。絵を見る私たちの心も照らすような深い精神性である。(章)

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