シンガーソングライター、さだまさしさんは小説も書く才人である。映画化もされた『解夏(げげ)』は難病に侵され、やがて両目の視力を失うという運命を背負った若者の物語◆病で職を辞して、故郷の長崎へ帰る。そこへ東京に残した恋人がやってくる。苦悩する若者は老僧の話によって、失明の恐怖は失明とともに去ることに思い至る。「僕が解放される瞬間なんだ」。そんな言葉をもらす。光は奪われるが、自己は「再生」するという物語でもある◆再生が医療の分野に光明をもたらし始めている。論文発表から今年で10年になるiPS細胞。最近、立て続けに研究成果がニュースになっている。再生医療に利用する備蓄用のiPS細胞を、新生児の臍帯血(さいたいけつ)を使って作ったり、がんのリスクを下げるため、体の組織などを作る際にうまく変化しなかったiPS細胞を除去する手法を開発したり…。どれも京都大iPS細胞研究所が成したことである◆世界をあっと言わせたiPS細胞の作製。今、失明の恐れのある目の難病の人に、目の細胞をシート状に加工したものを移植する試みが続く。一般的な医療に結びつくかどうかの試金石となる研究はもうすぐ始まる◆再生は「今」の中に「未来」を見いだすもの。病やけがで苦しんでいる人たちが、苦しみから解き放たれる日を待ち望んでいる。(章)

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