ライトアップされた〝ハーレム〟。2階建ての建物を吹き抜けにし、人形15体と噴水装置を配している=嬉野市塩田町大草野丙の嬉野観光秘宝館

 “大人の遊艶地(ゆうえんち)”として、温泉地を彩った娯楽施設「嬉野観光秘宝館」(嬉野市塩田町)が今月末で閉館する。1970年代以降、全国に20館近くあった同様の施設も現在はわずか3カ所となり、同館は九州最後の1館だった。わいせつさばかりがイメージされがちだが、“脱力系”と“まじめ系”が混在した、いわば「性の文化遺産」。佐賀大で法哲学を研究する傍ら、アングラ文化にも関心を寄せる吉岡剛彦准教授を案内人に、消えゆく地域の風俗を「文化的」に探ってみた。

 嬉野観光秘宝館に足を踏み入れるのは実は初めて、という吉岡准教授。等身大のろう人形を中心に、性器をかたどった全国の道祖神や性の祭りを紹介するなど明るい笑いを売りにしたコンセプトに着目。「近年、家庭などの現実世界から性の話題がタブー視される傾向にある。秘宝館はおおらかに性を楽しめる場所だった」と言う。

 館内には「スーハーマン」「アラビアのエローレンス」など、だじゃれを効かせたパロディー展示が多い。おっぱい型のボタンを押すと、ろう人形が回転。ハンドルを回すと今度はスカートがめくれ上がる。随所に“脱力系”の仕掛けが施されている。

 クライマックスは2階建ての建物内を吹き抜けにした宮殿内で催される“ハーレム”だ。暗い館内がライトアップされると、15体の人形と噴水の水が妖しげに浮かび上がる。

 一方で全国の道祖神を紹介する写真パネルや、春画など“まじめ系”のコーナーもある。吉岡准教授は、集落の境や村の中心にまつられた道祖神を見て、「道祖神は現世と死をつなぐもの。性器をかたどったものもあるが卑猥(ひわい)さより、おおらかさを感じる」。また、人形の裏側に精緻な細工を施した「象牙製からみ人形」を見て、性をめぐる大衆文化の奥深さに驚いていた。

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 70年代から温泉街に誕生した「秘宝館」。三重県の「元祖国際秘宝館」(71年オープン)を皮切りに、最盛期には全国に20館近くあったが、経営難や後継者不足もあって、現在は嬉野、熱海、喜怒川の3館に激減している。

 今回の閉館について同館関係者は、大型バスによる団体客の減少と、長崎自動車道開通による交通の変化を挙げる。80年代の最盛期には年間12万人だった来場者も近年は5千人前後。温泉地がかつての「オヤジの遊び場」から女性客も楽しめる洗練された観光地へと脱皮を図ってきたことと無縁ではないだろう。

 吉岡准教授は、それをストリップ劇場や日活ロマンポルノの盛衰と重ね合わせる。

 「テレビや一般映画からもベッドシーンが消える一方で、ネットやアダルトビデオなど、あからさまに全部見せている。生活の中での性と、行為としての性が混在、極めて内向きで、ゆがんでしまっている」と指摘。「閉館の原因は経営難だけではなく、性を語らなくなってきた時代背景が横たわっているかもしれない」。消えゆく「性の文化遺産」が象徴しているものは、意外に奥が深かった。

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 閉館後の4月20日に記念イベントが開かれる(チケットは完売)。イベント終了後、展示物のオークションがある。

【ズーム】嬉野観光秘宝館

 1983年に地元や鹿島市の建設業者など4人が共同経営で始めた。当時、北陸の温泉街で秘宝館が人気を集めているのを雑誌で知り、「性も一つの文化。観光資源として嬉野に適した町おこしになる」と多角経営に乗り出したのがきっかけ。大阪万博のパビリオンなどを手掛けた専門家(東京)に展示を依頼。約7億円かけて施設を作った。店頭には巨大観音像(台座込みで全長17メートル・総重量2トン)が建っている。

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