日本銀行は黒田東彦(はるひこ)総裁が就任して3年半の金融政策を検証し、看板の「異次元の金融緩和」を修正することを決めた。マイナス金利を導入してまで低金利で融資できる環境をつくったものの、企業の資金需要は乏しく、逆に銀行など経済界から反発の声が上がったことが背景にある。これまでの方針だった短期集中でのデフレ克服を断念し、長期的に粘り強く取り組む考えに変更した。

 黒田総裁が2013年3月の就任以来進めてきたのは量的緩和で、国債を中心とする有価証券を買い集め、市場に資金を流す手法だ。年間80兆円ペースで、その規模から「異次元の金融緩和」と呼ばれている。

 金回りがよくなれば、個人消費が回復し、企業の設備投資意欲が高まる。それが目標の2%の物価上昇につながるという考えで実施された壮大な社会実験でもあった。就任当初は「円安株高」を誘導し、安倍晋三首相の経済政策アベノミクスのけん引役だった。

 しかし、投資に無縁な市民にアベノミクスの恩恵はほとんどない。企業も将来への備えから利益を貯蓄に回し、景気への波及効果は限定的だった。日銀はさらに低金利を誘導しようとマイナス金利を始めたものの、金融機関の収益を圧迫したり、保険や年金の資産運用に悪影響を及ぼすなど副作用も大きく、経済界には「日銀にあまり動いてほしくない」と不信感も芽生えていた。

 今回の政策転換ではマイナス金利は維持するものの、国債など10年を目安とする長期金利がマイナスに落ち込まないように誘導する目標が設けられた。市場の声に配慮したとして安堵(あんど)感が広がっている。ただ「黒田バズーカ」と呼ばれる大胆な緩和策を続け、市場を驚かしてきた黒田総裁にとっては苦い思いではないか。

 「2年間で2%の物価上昇」という数値目標を取り下げた点も注目すべきだ。デフレ克服の短期解決を断念し、時期にこだわらず粘り強く取り組む持久戦の方針を示した。それは金融緩和政策の手詰まりを示していると言える。

 日銀としては金融緩和はアベノミクスと一心同体であり、限界に来ているとは認められないだろう。安倍首相は任期延長を視野に長期政権を目指しているとみられるが、金融緩和も長期目標へと変化させ、現在の路線を正当化しようという狙いが感じられる。

 ただ政策変更を図るなら、反省に立った検証が必要であり、日銀の「金融緩和は経済・物価の好転をもたらし、物価の持続的な下落という意味でのデフレがなくなった」というとりまとめは自画自賛すぎる。国民に課題をしっかりと示すべきではなかったか。

 もちろん、経済成長率が伸び悩む現状を日銀だけの責任とするのはフェアではない。アベノミクスは「三本の矢」といいながら、実際は金融政策への依存度が高く、「一本足打法」と揶揄(やゆ)されているのは安倍政権も承知のはずだ。

 日銀は金融の面から経済を下支えする黒子役にすぎない。国民が安心して消費にお金を回せるように社会保障制度を充実させたり、人口減少時代を乗り越える投資環境をつくり、企業に設備投資を促したりするのは政府の役割だ。お金だけ増やしても国民の豊かさにはつながらない。(日高勉)

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