築地市場(東京都中央区)の豊洲市場(江東区)への移転問題が混迷を深めている。敷地全体に施したはずの「盛り土」の一部がなかった上、環境基準を下回ったとはいえ、地下のたまり水からは有害物質まで検出された。

 なぜ、都は「敷地全体に盛り土をした」とうその説明を繰り返してきたのか。歴代幹部が地下空間の存在を把握していなかったとはにわかに信じがたいが、これまでの都の調査などから2011年3月から6月までの間に、地下空間を設けるよう基本設計を変更したことが明らかになってきた。

 都の調査に対して、複数の元幹部は、土壌汚染対策法改正で求められる「浄化作業に備えて建物下に空間を確保した」と説明しているようだ。だが、建物下に作業空間を確保するという目的だけならば、盛り土をした上で「高床式」構造を採れば済むはずだ。専門家会議が土壌汚染対策の柱と位置づけていた盛り土をしない理由にはならない。

 23日の会見で、小池百合子知事は「より詳細な解明が必要」として再調査と、有識者による市場問題プロジェクトチームを立ち上げると発表した。調査結果を待たねばならないが、都が食の安全をないがしろにしてきたという批判は免れないだろう。

 東京は今、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、世界的な関心を集めている。昨年は2千万人近い外国人観光客が訪れた。“東京の台所”の安全性が疑われるような事態になれば、日本のイメージは大きく損なわれかねない。

 東京五輪絡みでは、選手村や競技会場と都心を結ぶアクセス道路「環状2号線」の整備をどうするかも課題だ。豊洲に移転した後、築地市場跡地にアクセス道路を通す計画だからだ。

 だが、ことは食の安全である。アクセス道路の利便性と食の安全をてんびんにかければ、どちらを選ぶべきかは考えるまでもない。

 もうひとつ、気がかりな点がある。豊洲移転に伴う5884億円に上るコストの問題である。事業費のうち、青果棟など三つの建物の費用が高止まりしたという指摘が出ている。落札額が99・9~99・7%と極めて高い。しかも、それぞれの建物に入札した共同企業体はひとつずつで、競合するケースはなかったという。

 いかにも不自然ではないか。

 もはや「豊洲移転ありき」で進めるべきではない。そもそも築地市場の老朽化対策をめぐっては、1980年代に現在地での再整備計画が浮上し、いったん工事に着手した。ところが、営業しながら工事を進めるのは難しく、96年に再整備計画をあきらめ、移転へかじを切ったという事情がある。

 だが、当時と今では状況は大きく変わった。築地市場の取扱高が当時と比べて半減しているからだ。流通ルートが多様化し、産地と小売りなどの直接取引が広がったという事情がある。

 ここは知恵の出しどころだ。あらためて築地での再整備も含めて検討してはどうか。築地はブランドとしてもイメージが高く、銀座から徒歩圏内で、観光客にとってはアクセスしやすい。小池知事には徹底的な真相解明とともに、しがらみにとらわれない決断を期待したい。(古賀史生)

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