考古学とミステリーとの距離は案外近いのかもしれない。ミステリーの女王アガサ・クリスティーには『メソポタミア殺人事件』のように中東を舞台にした作品が多い。再婚相手が考古学者で発掘作業をよく手伝ったこともあるだろう。自叙伝に「土の中から出てきた工芸、技巧の物をたまらなく愛する」とある◆社会派推理小説のジャンルを築いた松本清張となると考古学者顔負けの執筆量だ。自著『吉野ケ里と邪馬台国(やまたいこく)』によると、「邪馬台国論争では小説家であることを封印する。フィクションを逃げ場に持つと言われたくない」と学者に対抗心を見せた◆女王卑弥呼(ひみこ)がいたのは九州か畿内か。吉野ケ里歴史公園では恒例の邪馬台国をテーマにした企画展が11月6日まで開かれている。今年は中国からの通過点となる「不弥国(ふみこく)」を紹介している◆場所を示す唯一の中国の史書『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』によると、不弥国は「(福岡市周辺の)奴国(なこく)から東へ百里」という。企画展では飯塚や宇美など福岡県内4地域の遺跡の可能性を示す。ここが特定できれば、陸路から水路に変わる次の行き先のヒントになるからだ◆清張は九州説をとるが、具体的な場所に言及したことはなかった。「邪馬台国は見えたと思っても消える陽炎(かげろう)のようなもの」という。それが古代史最大のミステリーの奥深さなのだろうが。(日)

このエントリーをはてなブックマークに追加