美貌で有名な平安時代の歌人、小野小町(おののこまち)は詠む歌もあでやかだった。代表作「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」は若さを失った小町のせつなさがつづられている。小説家の田辺聖子は小倉百人一首の解説本で「女の唇から漏れるため息を歌にした」と時代を超えた名歌を絶賛する◆小町の心は興行収入100億円を突破したアニメ映画『君の名は。』にも生きている。新海誠監督は映画のタイトルを、小町の別の歌から「夢と知りせば」との案を考えていたことをガイドブックで明かしている◆映画は高校生の男女が眠る間に体が入れ替わり、お互いを知る中で心も近づいていく物語。会えそうで会えない二人を「夢と知りせば覚めざらましを(夢と知っていれば、目を覚まさなかったのに)」という小町の歌を意識しながら描写している◆それが広い世代の共感を得ている。千年という時間の差はあれど、スマホのメールでつながる現代も、短歌で思いを伝えた平安時代も、人の心を打つものは変わらないということだろうか◆小町は死後、伝説となって生誕地などゆかりの地が全国各地に生まれている。『君の名は。』は社会現象となり、東京や飛騨など映画の舞台にファンの“聖地巡礼”が続く。物語に触れたい思いも共通するのかもしれない。(日)

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