微細な砂が小さな孔(あな)を通って下りていく。古代エジプトのころにはあったとされる砂時計は、量られた砂が落ち切ることで時を知らせる。あとどれくらいの砂が残されているだろうか。北朝鮮に拉致された被害者とその家族の方々には-。そう思うと胸が締めつけられる◆そこに暮らしていると分かっていても取り戻せない。生まれ育った日本に帰ることができない。父母にも、兄弟にも、友にも会えない。「命以外は人生の全てを奪われた」。先日、佐賀市での講演会で語った拉致被害者の蓮池薫さん。砂をかむような捕らわれの身だったころの話を聞いた◆「子どもたちも有意義な人生を過ごしている。日本に帰ってきて良かった」。今でこそ、家族とともに落ち着いた生活ができているとのことだが、この瞬間も、まだ帰国できない人たちのことを思うと、穏やかではいられないという◆北朝鮮が拉致を認めてからでも14年が過ぎた。高齢になった家族。被害者自身も若くはない。かの国に残された被害者が精神的にもつか。「私たちが帰ったことを知らないはずがない。なぜ自分たちは帰れないのかと思っているだろう。心はボロボロではないか」◆サラサラと砂が落ちるように、どんどん時が過ぎているのに何も進まない。「もう時間がない」。その一言が悲痛に響いた。政府に力を与えられるのは国民の声である。(章)

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