今年も日本からノーベル賞受賞者が誕生した。細胞が自らの中にあるタンパク質を分解してリサイクルする「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解き明かした大隅良典(おおすみよしのり)・東京工業大栄誉教授(71)が医学生理学賞に選ばれた。日本人の受賞は3年連続で、この流れが若い世代の研究者につながるように、国が科学の振興を支援していく必要がある。

 オートファジーとは、細胞内で不要になったタンパク質を膜に包み込んで“食べてしまう”現象だ。老廃物を分解して再利用することで、細胞が新たに生まれ変わることを促進する。生命を持続させる力になる。

 オートファジーが機能しなくなれば、古いタンパク質が細胞内に残り続け、パーキンソン病やアルツハイマー病など病気の原因になる。細胞異常の原因を解明していくことで、治療薬の開発につながる研究だ。

 大隅さんが顕微鏡で目撃した細胞生物学の大発見は従来の常識を塗り替えた。今では世界中の研究者たちがオートファジーの理論の応用に取り組む。年間で5千本もの論文が世に出ているという。米国ではがん治療の臨床実験も始まり、実用化に近づいている。研究が医学界に与えたインパクトも受賞理由となっている。

 大隅さんは受賞会見で基礎研究への思いを吐露した。「本当に役立つのは100年後かもしれない。将来を見据え、科学を一つの文化として認める社会になることを強く願っている」

 この言葉には科学をめぐる環境の変化が背景にある。国の財政が厳しくなるなか、大学研究も成果主義が浸透し、研究費の配分も「選択と集中」が進んでいる。

 国や企業が期待する分野には研究費が惜しみなく投じられ、どのような活用法があるのか分からない基礎研究は予算面では軽視されがちだ。大学研究者が知的好奇心に従い、自由な研究を続けるのは難しい時代となっている。

 そういう意味でも、大隅さんが今回の受賞で基礎科学の意味や可能性を示したことは若い研究者たちへの励みとなっただろう。資金面でも基礎的な研究を充実させる契機になってほしい。

 大隅さんの受賞で日本人のノーベル賞受賞は3年連続となる。21世紀に入ってからの受賞は16人で、米国に続き世界2位だ。日本はすべて自然科学3部門(医学生理、物理、化学)からの受賞となる。20世紀が9人(うち自然科学6人)だったことを考えれば、近年の受賞はかなりのハイペースといえよう。

 この流れを今後も続けていくには、未来の科学を担う子どもたちの教育が重要なのは間違いない。日本の子どもたちの学力は国際比較を見ても、国内の全国学力テストを分析しても、知識は相当程度あるが、知識を活用して考えるとなると、まだ伸びる余地がある。自ら課題を見つけ、解決する力を育む教育が必要となるだろう。

 大隅さんの出発点は顕微鏡と培養器だけの地味な研究室だった。会見では笑顔を絶やさず、「『あれ?』と思うことは世の中にたくさんある。子どもたちにはそういう気づきを大切にしてほしい」と語った。学ぶ楽しさを大人が子どもに伝える。そういう社会へのきっかけとしたい。(日高勉)

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