インターネットの「偽ニュース」が日米で同時に問題になった。米国では大統領選に影響を与えた上、発砲事件まで起きた。日本ではIT大手が利益のみを追求し、他サイトからの無断転用や内容が誤っている記事をまとめていたことが発覚、批判を浴びた。

 「ローマ法王がトランプ氏を支持」。7月に出回った偽ニュースだ。米国ではフェイスブック(FB)を介して拡散した。米国の世論調査機関ピュー・リサーチセンターによると、アメリカでは成人の44%がFBを通じてニュースに接している。FBでは10万件近く共有された。

 他にも「クリントン氏がイスラム国(IS)に武器売却」「オバマ氏がクリントン氏不支持」など反クリントンのデマが流れた。クリントン陣営がピザ屋で児童虐待をしているというウソの情報からは、ピザ屋に押し入った男がライフルを発砲する事件まで起きた。

 出元はトランプ支持派でネット上の活動グループ「オルタナ右翼」で、政治的な動機に基づくとされる。一方で、マケドニアの10代の少年たちがネットの広告料収入目的で、話題性のあるトランプ氏関連の偽ニュースを多く配信していたことも判明している。日本のIT大手による無断転用や「まとめ」も、モラル無き金稼ぎの手段としてネットが使われた。

 こうしたまとめサイトを多く運営していたIT大手のDeNAには、安価に記事を大量作成するため、他のメディアで掲載された文章の転用を推奨するようなマニュアルがあった。サイト閲覧数を上げて広告収入を増やすため、話題とは関係のない検索ワードを記事にまぶし、医療情報を扱うまとめサイトでは肩こりを「幽霊が原因かも」と記載したりもしていた。

 事実よりもウソが拡散される。正しい情報よりも粗悪な情報が上位に表示される。まさに悪貨が良貨を駆逐する状況が時を同じくして世界規模で展開され、社会が一時期、だまされた。これも「ネット時代」の大きな特徴だろう。

 ネットの登場以来、私たちの社会は劇的に変わり続けている。ネットとあらゆるものを結ぶIoTやバーチャルリアリティーなどの新技術は次々に生まれ、仮想と現実の境界は一層、曖昧になっている。SNSの中では、事実の確認よりも状況をいち早く察知して場の空気を読み、同調することに重きを置く風潮が多く見られ、偽情報を拡散させやすい下地をつくる一因ともなっている。

 世界最大の英語辞典を出している英オックスフォード大出版局が選んだ今年を象徴する単語は「ポスト・トゥルース(真実)」だった。ポストは「次の」を意味する。ポストの下に来る言葉は「過去のもの」となるから、ポストは転じて「重要ではない」という意味にもなる。つまりポスト・トゥルースは「客観的な事実や真実が重視されない時代」を意味する。

 偽ニュースの拡散は今後、システム改修により一定制御され、欲にまみれたウソ情報のまとめサイトも淘汰(とうた)されるだろう。だが、偽ニュースが世界を席巻した2016年は、時代の転換点の一つとして記憶しておく必要があろう。真実より個人の感情や信念が重視される風潮がはびこった結果、近い未来に何が起きるのかを注意深く見守る必要がある。(森本貴彦)

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