膨張し続ける東京電力福島第1原発の事故処理費用をどうするか。経済産業省の有識者会議が始まった。当初は11兆円規模と見込んでいたが、廃炉費などが増大し、さらに巨額の追加負担が必要になるとみられる。事故を起こした東電だけでは負担できず、電気料金に上乗せする形での国民負担が検討されている。

 2014年1月に国が認定した東電の再建計画に基づく試算によると、東電が全額負担する廃炉に2兆円かかるほか、東電が他の大手電力会社の協力を得ながら負担する住民への賠償や放射性物質の除染、中間貯蔵施設の整備などに9兆円かかり、総額11兆円ほどと見込まれていた。国の無利子融資で費用を立て替え、東電が数十年かけて返済するという事業計画だった。

 現実にはその額でおさまりそうもない。費用が最も増えそうなのが爆発した原発の廃炉で、熱で溶けた核燃料のかたまりを取り出す方法さえ見つかっていない。このため、凍土壁で汚水が広がるのを食い止めるのがやっとだ。廃炉だけでも数兆円の追加負担が見込まれるが、合理的な見積もりで出した数字ではなく、“青天井”に増えることもあり得る。

 東電は「事故の責任を全うしたい」との意向を示しているが、それも簡単ではない。収益を出すための柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働は遅れている。電力の完全自由化で他業種からの参入が続き、もはや電力供給を独占する企業ではなくなった。廃炉費用が膨らむことによる「債務超過」の危機に直面している。

 国は東電に資産売却やリストラなどをさせ、費用を捻出させる考えだが、それだけでは難しいことも認識している。そこで浮上しているのが、電気料金に処理費用の一部を上乗せして、国民に負担を求める案だ。

 ただ国民の理解を得るのは難しい。事故発生後、当時の社長が「炉心溶融という言葉を使うな」と指示するなど隠蔽(いんぺい)体質は国民の脳裏に焼き付いている。経営責任を明確にして企業として生まれ変わったことを示す必要がある。

 問題はそれだけではない。柏崎刈羽原発の再稼働が再建策の前提となっているが、それでは原発を守るためのスキームと言われても仕方がない。原発事故で故郷を奪われた被災者たちが求めているものだろうか。「東電破綻」という目の前の危機を回避するために、原発をどうするのかという重要な課題に目を背けてはならない。

 福島の事故は、原発が大事故を起こせば、経済損失だけでも10兆円超えることを明らかにした。一方で、高速増殖炉もんじゅの廃炉検討で、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルの行方も不透明だ。原発は「安価な電力」と言われてきたが、発電コストだけで考えるべき時代ではなくなった。

 そういう意味でも今回の事故処理を機に、原発のリスクやコストの問題とあらためて向き合い、将来的な脱原発に進むのか、原発の現状維持を選ぶのかを考えるべきではないだろうか。

 経産省の有識者会議は年内に結論を出す方針だという。国民負担が一番の検討課題であるなら、非公開とした審議の内容は速やかに開示すべきだ。国民不在の議論は許されない。(日高勉)

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