九州電力玄海原子力発電所の重大事故に備えた原子力防災訓練が実施された。県境を越えた福岡県や長崎県との連携は徐々に進んではいるものの、細部まで詰めた避難計画ができているとは言い難い。玄海原発の再稼働判断の時期が近づいているといわれるが、訓練結果の厳しい検証が必要だ。

 2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、佐賀県内で広域避難訓練は年1回実施され、今回が6回目となる。本年度の訓練で初めて、唐津市から鳥栖市への住民避難訓練が「福岡経由」で行われた。西九州自動車道、福岡都市高速道路など、ほぼすべて自動車専用道路を使っている。

 約90キロの距離だったが、九州自動車道が事故の影響などで渋滞が発生し、到着まで2時間かかった。もちろん、現実の原発事故となれば、福岡県内でも避難ラッシュが始まり、その程度の渋滞で済まないだろう。想定外の事態に対応できる柔軟な計画が必要だ。

 毎回のことだが、住民避難訓練は行政が用意したバスで行われている。避難計画は自家用車での避難が原則となっていることを考えれば、それでいいのかと思う。訓練中に事故が起きてはいけないという配慮が理由のようだが、実際に住民が体験して課題を見つけるのが訓練の趣旨ではないか。

 県境を越えた避難訓練は今春、福岡県側と福岡経由の避難で合意できたため、ようやく実施できるようになった。ただ、新たな避難ルートができたことに伴う避難場所の変更作業は終わっていない。「3・11」から5年半が過ぎたことを考えれば、ここまでしか進んでいないことに疑問を感じる。

 訓練には別の注文も付けたい。避難訓練は秋か冬の実施が続いているが、暑さの影響を調べるために夏に実施すべきだろう。

 唐津の離島では海が荒れて船で避難できない状況を想定し、学校体育館などを一時退避所としている。室内に放射性物質が入らないように密閉性を高める工事をしている。閉め切った室内にはエアコンもなく、夏場は熱中症リスクもある。この工事に1施設あたり2億円近く投じられているが、万が一の事故の際に使えるものなのか確かめる必要があるだろう。

 また夏は南風となるため、原発事故で排出する放射性物質は北側の離島に向けて流れる。そうなれば船の避難も難しい。その際の次善の策はあるのか。

 もちろん、課題はこれだけではない。甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤は即時避難が必要な原発5キロ圏内しか事前配布されていないが、避難区域が拡大したときにどうやって配るのか。高齢者や児童生徒など災害弱者の避難支援は十分なのか。避難計画で詰めておくべき問題は山積している。

 山口祥義知事は17日に県内自治体の首長を集め、原発再稼働について意見を聞くという。ただ、避難計画に不十分な点が多い中で、再稼働の地元同意が判断できる状況にあるのだろうか。

 今回が再稼働前の最後の訓練となるという見方もあるようだが、訓練結果を厳しく検証し、現実の事故に即した訓練を重ねた方がいいだろう。佐賀新聞社の県民世論調査では再稼働反対が50・8%で、賛成を11・5ポイント上回っている。住民の安全確保を最優先に考え、慎重に判断すべきだ。(日高勉)

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