「染錦金襴手丸紋鳳凰文様大花瓶」■データ 高さ:約200センチ 制作年:1899年 制作:深川製磁 ※毎月1回、第2金曜日に掲載します。ウェブサイトに特集ページ

大花瓶の随所に金彩がぜいたくに施されている。よく見ると細かな線がびっしりと引かれている

花瓶の上部には、ユーモラスな龍の頭部が彫刻で施されている

大花瓶の底部には白磁で陽刻を施している。欧米人の趣向に合わせ、シンメトリーになっている

シンメトリーに描かれた龍の文様

■パリ万博などで金賞受賞 完璧な造形と絵付け「再現不可能」

 高い工芸性と洗練されたデザインが評価され、パリ万博(1900年)とセントルイス万博(1904年)で金賞を受賞した「染錦金襴手(きんらんで)丸紋鳳凰(ほうおう)文様大花瓶」。深川製磁(有田町)を設立した深川忠次(1871~1934年)が、有田の威信をかけ、一流の陶工たちを結集して製作した逸品だ。高さ2メートルを超えた大作ながら、胴をすぼませており、「奇跡の形」と称賛されている。現代の最新技術をもってしても、再現不可能といわれる造形や綿密な絵付けは、“超絶技巧”というより、“神業”に近い。

 忠次は、香蘭社初代社長・八代深川栄左衛門の次男。忠次は最初、香蘭社で販売業務に従事し、シカゴ万博に出品社代表として渡米している。1894年に独立して深川製磁を設立。パリ万博やセントルイス万博などに積極的に出品し、自らもヨーロッパに出向き、欧米人の趣味趣向から陶磁器の使い方までつぶさに研究している。代理店の重要性に気付き、ワット商会と取引。欧米で最新式の機械を購入するなど、西洋の製陶技術を取り入れた。

 パリ万博では日本館入り口に一対で飾られ、有田磁器の名声を一気に高めた。ろくろ成形で4分割したものを継いでおり、胴の下方に向かうにつれ、細くすぼめたような形状になっている。不安定な形状ながら、ぎりぎりのところで絶妙な均衡が取れている。

 製作にあたり、ろくろ師や絵付け師ら有田の一流どころを結集、彫刻は京都から二宮都水を招いている。完成までに3年余りかかっている。

 同社の深川一太社長(68)によると、この大きさ、形状では1350度の焼成には到底耐えられず、「ゆがみ」や「へたり」「破損」が必ずといっていいほど生じるという。以前、大花瓶の再現を試み、1メートルほどのミニチュアを何度も作ったが「再現は100パーセント不可能と感じた」とあきらめている。

 本作は美しい形に緻密な細工や絵をバランス良く配している。染付の美しい藍色と赤の色彩が丹精込めて描かれ、見る者を圧倒する。深川製磁の焼成温度は一般的な温度よりも100度近く高く、酸化コバルトの還元をよく効かせ、抜けるような青を発色している。「深川ブルー」と称えられた。

 忠次は欧米人の趣向に合わせ、デザインにも工夫を凝らした。東洋の文様を異文化のアートとして捉えていた欧米人に理解してもらおうと、大花瓶を六面に分け、窓絵の中に「鳳凰」や「松」など深川製磁が得意とする文様を描き込み、文様の魅力を強調している。肩には龍の彫刻、さらに底部には白磁で陽刻を施したほか、驚くほど細かな金彩をぜいたくに施している。

 有田の伝統や技を確実に受け継ぎながらも、そこから離れ新しいものを生み出しており、「守破離(しゅはり)」を実現した作品と言える。

 現在、一対のうち1体は、フィラデルフィア博物館に保存。もう1体は有田町のチャイナ・オン・ザ・パークの「忠次館」に展示している。有田磁器の到達点ともいえる記念碑的な作品として、往時の栄華を伝えている。

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