今国会最大の焦点である環太平洋連携協定(TPP)が審議入りした。米国が承認するか不透明さが増す中、日本政府の前のめりの姿勢ばかりが目立つ。

 TPPは日米を中心にした環太平洋地域12カ国で構成するが、これまでに協定を承認した国はない。主導してきた米国で反対の機運が高まっており、発効するかどうかさえ見通せない情勢だからだ。

 オバマ大統領は推進の構えを崩していないものの、米議会内は反対意見が強い。オバマ氏に残された任期は来年1月までで、次期大統領候補は民主党のクリントン氏も共和党のトランプ氏も、いずれも反対を打ち出している。

 日本政府としてはいち早く承認してオバマ氏を後押ししたい考えだが、果たしてどれほどの効果があるだろうか。

 TPPはこれまで、外交上の「守秘義務」を理由に十分な情報が開示されてこなかった経緯がある。共同通信が先月実施した世論調査でも「臨時国会にこだわらず慎重に審議すべきだ」とする意見が7割を超えており、国民の理解はまったく進んでいない。

 政府は「世界のGDPの4割を占める巨大市場になる」などと、TPPのメリットばかりを強調するが、デメリットはどうか。

 発効すれば、農林水産物や工業品を合わせて全体の95%の関税が撤廃される。競争力が高い工業分野はともかく、守り抜くとしてきたコメなど重要5項目の「聖域」も大幅に譲歩してしまった。農林水産物では最終的に82%が国際競争に直接さらされることになる。

 最も気がかりなのは、日本の農林水産業にどれほどの影響が出てくるのかだ。食の安全は確保されるのか、食糧自給率は落ち込まないか、異常気象で不作に見舞われても安定的に食糧を確保できるのか。食の安全保障の観点から、不安要素は尽きない。

 政府の試算では、日本の実質GDPが約13兆6千億円押し上げられる一方、農林水産物の生産減少額は約1300億~2100億円にとどまるという。この数字だけみれば、影響は限定的であり、日本経済全体からみれば、プラス効果のほうが圧倒的に大きいというわけだ。

 本当だろうか。

 東大大学院の鈴木宣弘教授の研究グループの試算では、農林水産物の減少額は1兆5594億円に達する。政府の試算と比べて10倍近い損失だ。佐賀県内に限っても、県内の農畜産物生産額は全体の4分の1に当たる最大275億円が失われ、7500人の雇用がなくなるという。

 政府はあまりにも過小に見積もってはいないか。最悪のケースに備えて、対策の道筋をはっきりと示す責任がある。

 ここにきて、輸入米をめぐる不透明な取引が明らかになってきた。国が管理しているにもかかわらず、輸入米が安価に流通していたという疑惑である。売買同時入札(SBS)は輸入米に対して事実上の関税を課す仕組みだが、安価に市場を流通する“抜け道”があるようだ。これでは、国産米を守るはずの仕組みに実効性はないという証しではないか。

 どのようにして国内農業を支えるのか、形ばかりの対策では許されない。(古賀史生)

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