カフェや雑貨店、オーガニック食品店など個性的な店が並ぶスポット「西の原」。築90年の製陶所跡の内部を改装し、レトロ感が若者を魅了している=長崎県波佐見町井石郷

■若い才能町工場に息吹

 有田焼を量産した町工場が並んでいた長崎県波佐見町はこの10年で、若者が訪れる「レトロでおしゃれな町」に変貌した。20~30代の女性やカップルでにぎわい、食器を買い求めている。器をデザインしたのは同世代の担い手たちだ。

 若い才能を産地に積極的に集める-。それが波佐見を生まれ変わらせるための手だてだった。窯元や商社は必ずしも家族や親族を後継者とせず、芸術や窯業を学んだ県外の20代を迎え入れた。デザイナーだけでなく販売スタッフにも、彫刻や芸術経営学を学んだ人材がいる。商品の選定をほとんど任せるなど、やりがいも与えて招いてきた。

 象徴的な存在が、製陶所跡を改装し、平日でも若者が集う観光拠点「西の原」。商社「西海陶器」が2005年、芸術系大学を卒業したばかりの陶芸家の卵に、制作や発表の場として安く貸し出したのが始まりだ。彼ら20代は、旅先や留学先で知り合った学生や飲食店員ら独自の人脈で、個性的な出店者を集めていった。約1万平方メートルの敷地に並ぶ築90年の木造建築群にカフェや世界の文具を扱う雑貨店など10店が開店した。

 カフェオーナーの岡田浩典さん(40)は「再開発せず、歴史を刻んだ建物を生かそうとするところに引かれた」。生まれ育った東京にはない豊かさを感じた。

 波佐見に限らず窯業界は元来、芸術を学んだ人が働く受け皿になってきた。高度成長期の有田焼業界もそうだった。大量の注文をこなすため、生地作り、絵付け職人はもちろん、デザイナーを採用してきた。

 数多くの若者が料理店向けの食器や美術品を作り、技術を磨き、資金をためて独立を果たした。文化勲章受章者や人間国宝も駆け出しの頃、数々の窯元で働いた。有田焼関係者は指摘する。「波佐見は次世代のために種をまき始めている」

 芸術の町として熱を帯びている波佐見では、新市場の開拓でも若い力が躍動する。商社「マルヒロ」が2010年に始めた波佐見焼ブランド「HASAMI(ハサミ)」のマグカップ。後継者の馬場匡平さん(31)がデザインした。

 米国の古き良き時代のカフェを想像させる趣で、重ねるとブロック玩具のような面白さがある。焼き物に関心がなかった20~30代をSNS(会員制交流サイト)で引きつけ、セレクトショップなどに5万点を出荷するヒットになった。

 技術を集積して高級品を手掛けてきた有田焼は、値頃感のある大衆向け食器を量産してきた波佐見焼と歩みも持ち味も異なる。ただ、焼き物に求められている方向性は似通っていると、馬場さんは考える。「今の若いお客さんは産地にこだわらない。いいと感じれば、ファッションや音楽のように暮らしに取り入れる」

■波佐見町の観光客数

 波佐見町を訪れる観光客数は右肩上がりで、2015年度は93万6463人に上った。10年前の1.7倍で、20年前と比べると3倍に増えている。波佐見町によると、観光体験プログラムの充実や焼き物イベントの開催、温泉やホテルの新規開業が背景にあるという。4月29日から5月5日に開かれる「波佐見陶器まつり」には約30万人が訪れている。

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