自宅の庭に設けた工房で、作陶に没頭する山口英治さん=佐賀市多布施

山口英治さんが妻に頼まれて制作した菓子鉢。七宝つなぎ紋(上部)など、絵柄は自分好みに仕上げた

山口さんは作陶意欲が旺盛で、置き場所に困るほど

■手作りの菓子鉢 褒めぬ妻が「これ私んと」

 思えば、有田への赴任が後々の陶芸人生の始まりだった。警察官だったころ、妻が「異動先は有田もいいわね」って言ったんだ。そうしたら、その通りになって…。40歳のときだった。

 休日はよく妻に連れられて、夫婦で窯元巡りをした。それまでは仕事一筋。渋々、荷物を持ったよ。でも4~5カ所ほど窯元を回ると、「こんなにきれいな焼き物を人の手で作れるのか」「長い年月が過ぎても形をとどめて、美しさを保っている」って、奥深さを感じるようになってね。

 焼き物を本格的に作りたいと思い、妻に「仕事を辞めて、陶芸家を目指してもいいかい?」と聞いたんだ。妻はすぐに「何を考えているの。子ども3人、幼いのに」と猛反対をしてね。その後、何度か話を持ち掛けたけれど、全く取り合ってくれなかった。

 それでも焼き物への思いは冷めなかった。休日は有田の金武自然(じねん)先生(故人)のもとで、絵付けの勉強をした。定年を迎えると、陶芸の技術を身につけるため、職業訓練校や窯業大学校に通った。思い通りの形を作れるようになってからは、いろんな陶芸クラブに所属してきたよ。

 妻との窯元巡りで見た「七宝つなぎ紋」は、どんな器にも合わせられる。円を重ねるようにして描く文様でね。作品には、好んでこれを描いている。

 妻は作品を褒めてくれない。私が「上手やろ」と尋ねても、「ふんっ」と鼻で笑って返される。でも、自宅に設けた工房に完成品を置いていると、いつの間にか食卓に並んでいたり、ご近所や友人に贈ったりしている。口にはしないけれど、腕を認めてくれているのかな。

 昨年の夏、妻から「来客用の菓子鉢を作ってほしい」と頼まれてね。形と大きさの要望を聞いて、絵付けは私が考えた。もちろん、七宝つなぎ紋も描いた。

 完成させて妻に見せたら、「別のものがたくさんあったけん、もうよかよ」って言われてね。放っておくのはもったいないし、私は「友達にあげんね」と言ったんだよ。すると、妻は「駄目、これは私んと」って。そうはっきりと言ってくれた。うれしかったな。

 焼き物に関心が湧かなかったら、定年後は趣味がないまま、テレビの前でぼーっとしていたんだろうな。これからも思い付くままに作り続けたいね。

=余録= あうんの呼吸

 山口英治さんは8年前、自宅の庭の一角に工房を建てた。ロフト付きの5坪の空間に花器や酒器、抹茶茶わんといったさまざまな作品が整然と飾ってある。

 作り上げたときは「会心の出来」と思う。それでも時間がたつにつれ、「線をもう少し細くすればよかった」「どうにか修正できないものか」。あれこれ考えて落ち込むときもある。

 「まだまだ上達できる」と、工房に一日中こもっていると、妻の美知子さん(66)が「お茶どう?」と気にかけてくれるという。

 休憩時間に山口さんが制作中の作品を見せると、「ちょっと変わっとんね」と、独特の言い回しで後押しもする。夫婦のあうんの呼吸が次作を生んでいる。

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