「うつ」と「うつ病」の関係

佐賀県内における自殺者の原因動機別(上)佐賀県内における自殺者の推移(下)

松永昌宏さん

松永メンタルクリニック・外観

 「うつ」が原因で、仕事や学校に行けなくなってしまったり、家事ができなくなってしまったり…。そんな話を聞くことも多くなってきた現代社会。まわりは原因も分からず、元気そうに見えてはいても、それが病気だと言われてしまえばそう思うしかない、と悩む方も多いかと思います。今回はこんな理解するのが難しい「うつ」という病気を知ることで、「うつにならない」「やさしくできる」ヒントを探ってみました。

[ 取材協力:松永昌宏・松永メンタルクリニック院長 ]

01.ドクターに聞きました。「うつ」ってなぁに?

 「うつ」が病気かどうなのか…多くの患者を診断してきた専門家でないと適切な判断はできないもの。「うつ」という状態がどんなものなのか?まずは専門医に相談してみてはいかがでしょう。

■「うつ」にあるさまざまな「きつさ」と「つらさ」

 「うつ」という病気はさまざまで、分かりやすく型にはめるのが難しい病気です。精神医学の場合、「うつ病」というのは「内因性うつ病」という厳密な診断基準がありますが、「うつ」というだけでは範囲が広く、非常に曖昧な診断をすることがほとんどです。最近は「軽症うつ」などの表現も聞かれますが、これも曖昧。実際に「うつ」じゃないのかな…と来院された人を診察してみると、うつ病ではなく「ストレス反応の抑うつ状態」や、神経が疲れてしまっている「神経衰弱状態」、「抑うつ神経症」の人などが多い、というのが事実です。

 「うつ」の原因は、学校や家庭、職場などの環境に順応できない「きつさ=適応障害」、金銭問題や依存症などの悩み、大事な人との別れの「つらさ」、自分の感情がうまく調整できずに落ち込んでしまう、発達障害を疑われる…と、書き出すとキリがありません。治療も、急ぐ必要があるケースもあれば、急がずじっくり構える必要があるケース、など一人ひとり異なります。

 この「うつ」の「きつさ」や「つらさ」ですが、患者さんのなかには「風邪のきつさは我慢して仕事に行ける、でも『うつ』のきつさは動こうとしても体が動かないのでどうしようもない」と話してくれることがあります。これは「うつ」のつらさを分かりやすく表現していると思います。

●「うつ」と「うつ病」の関係

 気分が落ち込んだり、やる気が起きなかったりする「こころの不調」は誰もが経験するもので、「不眠」「動悸(どうき)・めまい」など身体的な症状も関わります。そんなからだやこころの不調と「うつ病」の違いを見分ける1つのポイントは、「どれだけの症状がどのくらい長く続いているのか」ということ。「うつ病」はいろんな症状を含む複合体で、当てはまる症状が5つ以上あり、2週間以上続く場合をいいます。

●「完璧主義」が招く女性特有の「うつ」

 女性の「うつ」のケースのなかで特に気を付けてほしいことは、仕事や家庭など、生活のすべてを完璧にこなそうとするタイプが陥りやすい「スーパーウーマン症候群」といわれるものです。小さい頃から「しっかりしている」「優等生」などといわれ、会社の仕事もテキパキこなす。家事や育児も手を抜かず、理想とするライフスタイルを実現しようと努力する…そんな人は、過労やストレスがたたって無気力になったり、または急な心身不調が起こったりしやすいものです。

 からだに現れる具体的な症状は、慢性頭痛や肩こり、過敏性大腸炎、イライラなどさまざまで、これらの症状が複合化すると「うつ」の症状が現れます。さらにホルモンのバランスも乱れるため、生理不順やときには若年性の「更年期障害」を起こすこともあるようです。

02.あやふやなイメージが先行「新型うつ」

 学校や企業などで最近よく聞かれるのが、いわゆる「新型うつ」とよばれるこころの病気。学校や職場では病気で休んでいるのに、プライベートでは元気に遊び回っているようにしか見えず、仮病ではないかと周囲が不信に思ってしまうケースです。そもそも「新型うつ」という言葉は、心理学や精神医学の用語ではありません。本人は、元気なように見えても、実際は気分が晴れることはなく疲れきっています。周囲が勝手に「新型うつ」だと決めつけてしまうことは、本人にとっては大きなこころの「負担」になります。

 松永院長の経験によると、「新型うつ」と言われる人のほとんどが「適応障害」です。学校や職場などの与えられた環境に「入っていけない」「なじめない」ケースが多くみられます。この適応障害ですが、職場環境が許せば、負担のない部署に異動するだけで完治したり、思い切って辞めることで完治するケースもあります。ただ現在の社会(会社)の状況のなかでは、まったく経験のない仕事をポンと任されたり、売上などの数字をクリアしなければならない環境に、自分を「曲げる」ことができなくて落ち込んでいく人もいます。

 適応障害の場合は、どうしても周囲がつい指摘することで「ダメな人間だ」と気持ちを追い詰めてしまいがちです。環境を変える、考え方を変えるアプローチが治療には大切です。考え方を変えることについては、本人が生まれ持った性格が左右することは否めませんが、ストレスは「甘え」ではなく、耐性ができるまでに時間が必要なのだと、まずは周囲が理解することが必要です。

【※適応障害】

 さまざまなストレスが原因で、抑うつ気分、不安、怒り、焦りや緊張などの精神的な症状が出現し、そのため普段の生活に支障が出るようになってしまった状態。通常は、原因となったストレスから離れることで、症状は改善する。

◆適応障害を「甘え」ではないと伝える5つの方法

・信頼できる人に話してみる

・医師に診断してもらう

・ストレスの発散方法を考える

・誰でもなりうることを伝える

・改善する努力をする

03.「自分は違う」にひそむ依存と「うつ」

 アルコールや薬物などのモノからギャンブルや買い物、パソコン、ゲーム、恋愛にいたるまで、人やモノ、行為に「依存」してしまうことがあります。きっかけはささいなことから始まりますが、いったんやめるといらだちや不安、絶望的な気持ちになったり、依存の対象によっては、つらい離脱症状が現れることもあります。対象に支配され、自分の意志で欲求をコントロールできなくなってしまうと、これは確かな「依存症」です。依存症は決してだらしない人、意志が弱い人がなるわけではありません。こころ(脳内)の「ブレーキが壊れた」状態なのです。

 依存症のなかでもとくに「うつ」と関わりが深いのが、「アルコール依存症」です。アルコール依存症と「うつ」は合併して発症することが多く、「うつ」症状が見られる場合や、「うつ病」が先で後から依存症になる場合などいくつかのパターンが見られます。またアルコールは自殺とも強い関係があり、自殺した人のうちの3分の1が直前に飲酒したことが分かっています。

●「うつ」の治療と医療機関

 「うつ」を含む精神疾患の多様性が広がるなか、県内の専門の医療機関(心療内科・精神科)では、「ストレス」や「女性」に特化した入院スペースを持つ病院や、患者さんとその家族の「こころの負担」に配慮した医療機関が増えています。またかかりつけの医療機関でも必要に応じて精神科医に紹介し、早期に適切な診断を受け、治療につなげることを目的とした「かかりつけ医・精神科紹介システム」というものが、佐賀県にはあります。

=取材協力=

松永メンタルクリニック院長

松永昌宏さん

「私たちがとくに注意しているのは、相談に来られた方のお話をできるだけゆっくりと伺うこと。ご本人が受診を望まない場合は、ご家族の相談だけでも可能です。こころの問題で苦しんでいる方への接し方や、治療や療養についてもアドバイスしています」

松永メンタルクリニック(心療内科・精神科)

住 所 武雄市武雄町昭和210

電 話 0954-27-8211

時 間 9:00-18:00 木・土曜9:00-12:00(完全予約制)

休 診 日曜・祝日

H P http://matsunagamental.com

このエントリーをはてなブックマークに追加