政府が通信傍受の対象犯罪を12月1日から拡大する政令を閣議決定した。通信傍受の拡大に伴い共謀罪法案提出も現実味を帯びる。拡大の先に見える「監視社会」にどう歯止めをかけるのか、議論が欠かせない。

 通信傍受の拡大によって、警察が電話やメールの内容をチェックできる対象犯罪が、これまでの薬物・銃器犯罪、集団密航、組織的殺人という4類型から、組織性が疑われる詐欺や窃盗、殺人など9類型を加えた13類型に広がる。従来、捜査員がNTTなどの通信事業者に出向いて事業者立ち会いの下で傍受していたが、事業者から暗号化された傍受のデータを送信してもらい、警察施設内で作業できるようになる。

 通信傍受拡大の背景には、警察が10月から、裁判員裁判の対象事件について原則、容疑者取り調べの録音・録画(可視化)の試行を始めたことがある。可視化の導入で供述が得にくくなることなどを危惧した警察側が求めていた。

 通信傍受という捜査手法と関係が深いのが共謀罪法案だ。過去3回、野党や世論の強い反対で廃案になったが、政府は今回、2020年東京五輪に向けたテロ対策を前面に掲げ、名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変えて法案を用意した。臨時国会への提出は見送ったが、来年の通常国会には出すとみられている。

 呼び方を変えても、共謀罪であることに変わりはない。犯罪が目に見える形になる前の「話し合い合意」を罰するには、徹底した監視と情報収集が必要になる。通信傍受はこれまで以上に重要な捜査手法になる。

 そうしたことから、通信傍受のさらなる拡大と恣意(しい)的運用への懸念が強まっている。2人以上が話し合って犯罪の実行に合意した共謀の段階で処罰するには、怪しいとにらんだ人物を常時監視することが欠かせないが、共謀罪の対象犯罪は600以上。傍受の対象犯罪拡大は避けられないだろう。加えて警察は家屋や事務所に送信機を仕掛け日常的な会話まで拾う「会話傍受」の導入なども検討している。こうした手法について法制審特別部会は、プライバシー侵害の懸念から「将来の検討課題」とした。

 暮らしの中に防犯カメラが増えている。顔の特徴を数値化してデータベースに登録し、防犯カメラに映った人物と照合して人を特定するシステムも試験的に導入されている。カメラの映像は既に事件捜査の貴重な資料となっているが、普段の管理体制や捜査機関への映像提供のルール、プラバシーへの配慮などはしっかり考えられているだろうか。

 大分では今年、参院選に関連して県警が労働組合などが入る建物の敷地にビデオカメラを隠して設置していたことが問題になった。裁判所の令状を取らずに、車に衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付けた捜査の違法性が問われた窃盗事件は、地裁と高裁で判断が分かれ、最高裁大法廷で審理されることになった。

 情報通信機器の技術の発展がめざましい。捜査への活用も広がっている。犯罪の抑止や解決は大切なことだが、人権やプライバシーを顧みない行為と引き替えにするものではない。問題や課題を整理して議論が必要だ。(小野靖久)

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