天皇陛下がビデオメッセージを通じ、国民に理解を求められた「生前退位」について有識者会議での検討が始まった。政府は陛下一代限りとした特別法での対応を軸に検討している。しかし、陛下の言葉には象徴天皇制が安定的に続くために、自身だけでなく、長期的に考えてほしいとの思いがにじんでいた。特別法という急場しのぎの手法でいいのか。有識者会議には踏み込んだ議論を求めたい。

 政府は陛下の意向を踏まえ、2018(平成30)年の退位実現を検討しているという。有識者会議がとりまとめた提言をもとに、政府が来年の通常国会に関連法案を提出する方針だ。12月に83歳となる陛下の年齢や、多忙な公務が予想される20年の東京五輪を考えれば、ぎりぎりのスケジュールということだろう。

 明治憲法以来、天皇は終身制を想定しているとされ、生前退位には慎重論も根強い。政府は「陛下一代」と限定することで反発を抑え、作業を迅速に進める考えだ。

 しかし、天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」とする現行憲法には終身制の記述はなく、皇室典範4条「天皇が崩じたときは、皇嗣が直ちに即位する」の解釈で、存命中の譲位が認められないことになっている。憲法に手をつけずとも皇室典範の改正で対応できる問題であることを考えれば、特別法だけが答えではなく、恒久対策もできるはずだ。

 生前退位を認めるか否かは、象徴天皇のあり方を通じ、考えるべき問題でもあるだろう。憲法や皇室典範には「象徴」の具体的な姿は記されていない。第2次世界大戦敗戦後、昭和天皇と陛下が二代にわたって模索し続けた結果が今の形になっている。

 現行憲法のもとで即位した陛下と皇后さまは被災地の訪問や戦没者追悼の慰霊の旅を続け、国民と歩む姿を行動で示してこられた。高齢で公務が行えなくなれば、自ら築き上げてきた「象徴」の姿が変わってしまうかもしれないという危機感が8月のお言葉に強くにじんでいた。

 生前退位に慎重な学者からは、皇太子が摂政として天皇を支えればいいという意見もある。ただ、憲法学者の佐藤幸治氏の言葉を借りれば、「摂政は天皇の法定代理機関。天皇でないから象徴の役割を有しない」。象徴としての責任を積極的に果たすには、やはり皇太子に譲位する形が望ましい。

 一方で、生前退位はさまざまな問題点を表面化させる。皇太子さま(56)が即位すると、秋篠宮さま(50)の長男悠仁(ひさひと)さま(10)一人しか若い男性皇族がいない現状が改めて浮き彫りになる。悠仁さまの誕生で女性・女系天皇の議論は中断していたが、今回の議論を機に再開する必要はないか。

 また、生前退位の恒久化の議論を進めるためにも、定年制などの条件も検討すべきだろう。天皇の退位や即位で政治的な思惑が入り込むことは許されない。

 時間的な制約から今回は特別法での対応はやむを得ないとの声が広がっている。ただ、陛下が数年前から譲位の意向を周囲に示していたことを考えれば、議論を始める時期そのものが遅すぎなかったか。象徴天皇制を安定して続けるためにも、小手先の対応はもう避けるべきだ。(日高勉)

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