中国の習近平国家主席とフィリピンのドゥテルテ大統領が会談し、南シナ海問題の「棚上げ」で合意した。中国の主張を退けた仲裁裁判所の判断を“無効化”したい中国と、経済協力を引き出したいフィリピンの思惑が一致した格好だ。

 あからさまな札びら外交に徹した中国の勝利と言えるだろう。

 中国はフィリピン・マニラと北部をつなぐ鉄道の建設や、港湾などのインフラ整備への支援をはじめ、事実上の禁輸措置を続けてきたフィリピン産果物の輸入再開、麻薬中毒者更生施設への融資など、大規模な経済協力を申し出た。さらに、ドゥテルテ氏が率いた約400人のフィリピン経済界関係者との間で、総額135億ドル(約1兆4千億円)の契約まで結ぶという歓待ぶりだった。

 経済的な支援にとどまらない。ドゥテルテ氏は麻薬撲滅の一環として容疑者を超法規的に殺害して国際的な批判を浴びているが、中国はここでも、ドゥテルテ氏支持を表明してみせた。

 習主席から最大級のもてなしを受けたドゥテルテ氏は「軍事でも経済でも米国とは決別する」「友人にお別れを言う時だ」と述べ、対中重視路線へかじを切った。

 フィリピンはこれまで、対中国包囲網の主軸を担ってきた。南シナ海の実効支配を進める中国の動きに対抗し、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所に手続きを申し立て、今年7月には「中国が歴史的に、この海域や資源を排他的に支配していたとの証拠はない」という全面的な“勝訴判決”まで勝ち取っている。

 この判決は、フィリピンだけでなく、日米が「法の支配」を順守するよう中国に求める最大の外交カードになるはずだった。

 両国の接近は、日本にとっては大きな痛手に違いない。台頭する中国に対抗して足並みをそろえてきた日米豪など西側陣営の一角が崩れることになるからだ。

 だが、フィリピンがこのまま中国に取り込まれてしまうと結論づけるのは、やや早計ではないか。

 というのも、今回、両国が結んだ大型の経済支援は実現までに時間がかかる上、署名したのは大半が「覚書」にすぎないからだ。そこには中国としてもフィリピンを全面的に信頼しているわけではないという思惑が透けて見える。しかも、領有権を争う「スカボロー礁」など領土問題については、今回の会談では触れてさえいないようだ。

 来週、ドゥテルテ氏は日本を訪れる。ここで、日本が良好な関係を築き、どれだけ巻き返せるかが焦点になってくる。

 フィリピンと米国の両国関係が冷え込んでいる今、日本としては橋渡し役を買って出たいところだ。ドゥテルテ氏のこれまでの発言を振り返ると、場当たり的で感情的な反発が目立つ。日本としては表面的な発言に惑わされることなく、その裏の真意を冷静に見極めなければならない。

 日本にとってフィリピンは引き続き、政治的、経済的に大切なパートナーであり、海洋進出を強める中国を封じ込めるために連携が欠かせない。日本政府には「法の支配」を求める立場を堅持しつつ、新たな信頼関係の構築に取りかかってもらいたい。(古賀史生)

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