何かを成し遂げた人には、それを支えた存在があるものだ。77歳で亡くなった登山家の田部井淳子さんにとっては、夫の政伸さんだった◆山が縁で結ばれた2人。アルプスのマッターホルンで凍傷になり足の指を切断した政伸さんは、妻を支える側に回る。エベレスト登頂に成功し、帰国した淳子さんにテレビの番組で司会の男性が言った。「半年間も御主人とお子さんをおいて、よくまあ、行ってこられましたね。御主人はよほど理解のある方なんですね」◆それを聞いた政伸さんは「理解があるって? 理解なんかだれだってあるさ。ただそれを実行する勇気があるかどうかということだよ」と言ったという。淳子さんが自著『エベレスト・ママさん』で明かしている。登山準備で忙しい時、政伸さんが育児や家事を買って出て、留守を支えた。「日本のことは俺にまかせて、力いっぱい登ってこい」と妻を送り出す◆「イクメン」を超えた同志のようだ。時代は40年前。夫婦に風当たりは強かったが、夫の応援に淳子さんも懸命に応えた。晩年、がんに侵されてからはどこへでも付き添い、会話はそれまでより増えたと、著書にある。病気が与えてくれた贈り物だろう◆支えは力となり、困難なことに立ち向かう強い心をくれる。淳子さんの人生を振り返ると、そんなことを教えてくれる。(章)

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