米国の作家ヘミングウェイ(1899~1961年)の『老人と海』はカリブ海に浮かぶ国、キューバが舞台である。1952年に出版され、世界的なベストセラーになった◆ひとり沖に出た老いた漁師の針に、巨大なカジキマグロが食いつく。4日間の格闘の末に仕留めるが、大きすぎて舟に引き上げられず、横に縛り付け港へ戻る途中、サメの群れに遭遇する…。人間の勇気をうたうこの小説は、ある新聞記事がもとになっており、老漁師にはモデルがいるという(シロ・ビアンチ・ロス著『キューバのヘミングウェイ』)◆偉大な作家は人生の後半の21年間、キューバに住んだ。訪ねた首都ハバナ郊外の彼の別荘では愛艇を見ることができ、『老人と海』ゆかりの漁村コヒマルには船をつないだ桟橋が残る。漁師たちの話を聞いたというこの地の海はあくまで青く、音を失ったように静かである◆「まるでわが家にいるように感じる」とキューバを愛した釣り好きのヘミングウェイは、革命前のキューバ共産党に多額のカンパをしたとされる。虐げられる弱き存在への共感があったのだろうか◆「人間は殺されるかもしれない。けれど負けはしないんだぞ」(福田恆存(つねあり)訳)。『老人と海』で老漁師がつぶやく言葉である。苦難の道を歩んだキューバの現代史。遺言のように、人々を鼓舞する。(章)

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