米大統領選は本選まであと1週間余りとなった。最終盤にきて、民主党候補クリントン氏と共和党トランプ氏の戦いの情勢はめまぐるしく変わっている。世論調査結果も3回のテレビ討論を受けて、クリントン氏のリードが広がったが、「私用メール」問題の拡大で、またトランプ氏が追い上げる可能性も出てきた。

 クリントン氏に対し、国務長官在任時の私用メール問題に関するFBI(連邦捜査局)の捜査再開が決まった。優勢を維持していたクリントン陣営には想定外のことだ。早速、トランプ氏も反応し、クリントン氏批判を繰り返している。激戦州の一部では、トランプ氏の巻き返しもみられる。今回の騒動が「オクトーバーサプライズ(10月の驚き)」と呼ばれる選挙直前の波乱要因になるとの観測も出ている。

 しかし、テレビ討論でもそうだったが、相手候補の「虚偽発言」など人格攻撃が目立つことや、スキャンダルばかりが前面に出て、米国にとって重要な政策の議論が一向に深まっていない点が残念である。

 もちろん、トランプ氏の女性蔑視発言、納税額を公表しない点や、クリントン氏が職務関連情報を私的メールで扱った問題は確かに無視できない。ふさわしくない人格の人物に米国のかじ取りを任せれば、同盟国である日本も大きな損害を被ってしまう。

 しかし、米国が抱える問題をもっと議論してほしい。クリントン氏もトランプ氏も、環太平洋連携協定(TPP)には反対しているが、この先、自由貿易と保護主義のどちらを選ぶのか。中低所得層の所得をどう伸ばし中間層を復活させていくのか-。こうした経済・貿易政策は世界に大きく影響するし、各国がその行方を知りたがっている。

 また、軍事面で拡大する中国にどう向き合っていくのか。内向きに転じて日本など同盟国に負担を転嫁する方向に転換していくのかも、重大な関心事である。「もはや米国は世界の警察官ではない」とオバマ大統領は明言し、これは政権を超えて米国の政策になっていく可能性が強い。同盟国の日本にとって、とても気になるところだ。近年激しさを増す人種対立の緩和も喫緊の課題であり、処方箋を考えてほしい。

 大まかに言って、クリントン氏は国際関与派であり、富の再分配を通じて格差を是正する政策を主張している。一方のトランプ氏は保護主義であり、対外関与の削減を唱え、減税による景気浮揚というスタンスだ。しかし、ともに詳細な具体策は議論されてない。

 特にトランプ氏は、公約が漠然とし過ぎている。テレビ討論でも「外国に流出した仕事をどうやって取り戻すのか」と聞かれて、明確な方法を示せずに、政策の欠如が浮き彫りになった。

 今回の大統領選の特徴は、選挙戦が醜聞合戦になってしまい、両氏とも国民に嫌われているという点だ。米国内では「もし違う年であれば、両方とも党の候補にはなっていなかったろう」とさえいわれている。4年に1回の米国の針路を決める選挙が、重要政策ではなく、どちらがうそつきかという点に集中していてはもったいない。最後まで理性的な論戦を展開してもらいたい。(横尾 章)

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