10月下旬の唐津湾。くんちが終われば、鈍色が濃くなり、冬を迎える

 過日、滋賀県長浜市に出張した。雲一つなく晴れ渡る湖北。新幹線を米原で降り、北陸本線に乗り換えると程なく進行方向左手に琵琶湖が臨まれた。強風のために白波が立ち、あたかも海のよう。水も濁って、湖面は土色だった。その様を目の当たりにし、脳裏によぎったことがあった。晩秋の、玄界灘にうり二つだったのだ。

 四季折々の玄界灘は美しい。が、唐津が好きでやまない私の琴線を震わすのは冬の訪れを微(かす)かに感じさせる、おくんち後の曇りの日、だ。なぜ晴れじゃないのかというご質問がありそうだが、舞鶴橋から臨む、曇天の日の玄海の波頭は迫り寄る冬を感じさせ、常日頃の明るさとは一変した切なさが漂う。そこが堪(たま)らないのだ。遥(はる)かな歴史を抱える唐津。そのストーリーの明と暗が人の心に訴えているように思われてならない。

 おくんち。在京の身から察するに、それは唐津人にとって1年間で最大の催事であるように感じられる。そんな行事が終わることは筆舌に尽くせない寂しさをもたらすのではなかろうか。さらに、被せるように冬が訪れる。一方、精も根も使い果たした町衆たちを施すように、冬の唐津の食は季節で最も豊かになる。

 クエやらブリやら、例にし出すと枚挙にいとまがない。いずれも美味であり滋味深い。数多(あまた)ある産物の中で僕のお気に入りはからすみ、だ。酒徒を魅了してやまない、その妙味もまた玄海の海の、産物だ。

 賑(にぎ)やかさが去った後に彼の地に漂う、堪らない切なさ。玄海の海はそれを補って余りある食をもたらす。それらが相まり、冬の唐津をより艶やかに魅せる。やはり彼の街は素敵(すてき)なのだ。

 【略歴】むらた・まさとし 東京都出身、世田谷区在住。ポニーキャニオン勤務。唐津に魅せられ、その魅力を新聞、雑誌、ブログを通じて発信している。49歳。

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