ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が来日し、安倍晋三首相と会談した。日本側は今後5年間で8千億円規模の支援を約束し、ミャンマーの民主化を後押しする姿勢を強く打ち出した。

 ミャンマーは、その経済的な潜在力から「アジア最後のフロンティア」と呼ばれる。企業の視線に立てば、人口5千万人の安価で豊富な労働力を抱え、経済成長率も年7・0%と、市場としての魅力が年々高まりつつある。各国企業が新たな進出先として熱い視線を注ぎ、日本企業にとってもその成長力は見逃せない。すでに300社を超える企業が進出を果たしている。

 だが、軍事政権から民政移管が進んだとはいえ、日本企業が進出するには、いまだにハードルが高いのも確かだ。安定した電力供給などのインフラ整備が遅れている上、海外から投資を受け入れる法整備が不十分だからだ。

 その点、今回の日本による経済支援は、双方に利益をもたらす「ウィン・ウィン」につながるだろう。

 例えば、電力インフラにしても、地球温暖化を懸念するスー・チー氏の思いに沿って、これまで軍事政権が進めてきた火力発電ではなく、水力発電を軸に据えている。住民の生活水準を押し上げ、企業進出を受け入れる環境整備にもつながるに違いない。

 日本にとってミャンマーは、経済的な側面だけでなく、安全保障上も大きな意味を持つ。

 ミャンマーは、かつての社会主義独裁体制から軍事政権を経て、2011年に民政移管した。その後も軍出身のテインセイン氏が大統領に就き、スー・チー氏率いる新政権の誕生は、今年3月まで待たねばならなかった。

 軍事政権時代のミャンマーは中国から大きな支援を受けてきた。スー・チー氏は「全方位外交」を掲げて、これまでの中国一辺倒から抜け出そうとしている。

 安倍首相は会談で、自由、民主主義、法の支配といった言葉をちりばめながら「普遍的価値を共有するスー・チー氏の国造りに敬意を表する」と述べた。それも民主化を後押ししたいという考えからだろう。

 西側諸国にとって、東南アジアの西端に位置するミャンマーは、台頭する中国の動きと相まって安全保障上の重みが増している。中国がインド洋周辺国に港湾拠点を整備する「真珠の首飾り」戦略の一環として、ミャンマーを重視しているという事情もあるからだ。

 国民の大きな期待を集めてスタートした新政権は、いまだ目に見える成果を出せずにいる。政権移行に伴う組織づくりが遅れ、今年4~9月の外国からの投資額が半減した。このままでは経済的な失敗が、政権基盤を揺るがしかねない。

 中国側も大規模な経済支援に乗り出している。日本としては、ようやく民主化へ歩み出したミャンマーが、ふたたび中国側に取り込まれるのを見過ごすわけにはいかない。スー・チー氏は京都大学の研究員だった経歴もあり、日本との個人的な関わりが深い。あらゆるルートを通じて苦境に直面する新政権を支えていくべきだ。それが同時に、日本の安全保障体制の充実にもつながる。(古賀史生)

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