結婚当時に買った焼き物の中で、ただ一つ残っている鉢を眺める西エイ子さん(左)と守彦さん=伊万里市の自宅

50年前、結婚を控えて購入した鉢。西エイ子さんは当時を思い出し、人が集まる機会があれば再び使いたいと考えている

知人からもらった12種類の唐子絵の器は現在、この2枚の皿だけ残っている

■赤いバラの鉢 夫婦の原点 歩みの証し

 赤いバラの図柄が描かれたこの鉢は50年前に有田で買い求めました。結婚生活に向けて、段ボール箱いっぱいに買った焼き物の一つです。当時の品は割れたり、子どもや近所の人に譲ったりして、もう何も残っていないと思っていたけれど、最近になってこの鉢を見つけて、私たちの夫婦の原点を思い出しましたよ。

 私たち夫婦は教員でした。夫とは1965年、私が伊万里市の山手にある小学校分校で教えていた新任のころ、同僚の先生を通じて知り合ったんです。夫は有田工業高校に赴任していて、翌年の10月に結婚する運びになりました。

 当時はそれなりに所帯道具をそろえないといけない。でも、具体的な準備は多久の実家に任せていたから、結婚するって頭では分かっていても実感が湧かず、何だか夢みたいでね。そうしていたら夫が「焼き物を買いに行こう」って、お金をぽんと渡すんです。初任給が1万5千円の時代に、2万円から3万円ぐらいあって、その金額にびっくりしちゃって。

 一緒に陶器市を歩き、私の好みで茶わんやお皿、湯飲み、鉢物とか、日常に使うものを買ったんです。夫が有田工業高校に勤めていたから、行く先々で教え子がにやにやしていましたね。校医の先生とか商店の人とか、夫が親しくしている人もたくさんいて、あいさつをしたり家に上がったりもしました。それまで付き合っていることを秘密にしていたから、とても恥ずかしくてね。結婚前の不安もあったけれど、こうして有田の人に見られたことで、覚悟は決まりました。

 有田と縁が深いのか、有田焼創業400年の今年、私たちも金婚の節目を迎えました。子どもたちが祝ってくれて、9月には孫たちと一緒に温泉に連れていってくれました。一番上の孫娘は今年22歳で、ちょうど私が結婚した年齢。自分を重ね合わせて「こんなに幼かったんだ」と思いましたよ。

 自宅でこの秋、近所の人とお茶会をする前に、お茶菓子を入れる器を探していて、戸棚の奥から見つけたのがこの鉢です。

 子どもたちには照れもあって、結婚のエピソードを詳しく話したことはありません。でも、鉢のおかげで振り返る機会になったし、帰省したらこれを出して、私たちの出会いとか半世紀の歩みを話してみようかな。結婚する時は想像もしなかった50年。これまで歩んできた証しとして、この器があるような気がしています。

=余録= 頂き物

 西エイ子さんと夫の守彦さん(80)は教員を定年まで勤め上げた。そのうち守彦さんが18年間、エイ子さんが15年間を有田町内の学校で教えている。有田と縁が深い夫妻が今でも大切にしているのが、結婚前に町内の知り合いからの頂き物の唐子絵の皿という。

 茶わんや酒器など12種類の器を5人分そろえた高価なセット。家庭で大事に使いながら、節目には子どもに譲るなどしてきた。「必要な分だけあれば」。今は2枚の皿だけが自宅に残る。

 「魚のフライを盛ったりして、普段よく使っています。お料理がよく映えるの」とエイ子さん。思い入れがある器は、日常に彩りを与えている。

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