文豪夏目漱石は晩年、若き日の芥川龍之介に手紙を送っている。短編小説『鼻』を絶賛したものだ。「敬服しました。ああいうものをこれから二、三十並べてご覧なさい。文壇で類のない作家になれます」(『漱石書簡集』)。漱石は物書きの孤独を知る。龍之介はこの手紙に励まされ、傑作を書き続けた◆第一線に立つ人の言動は後に続く若者への道しるべとなる。今年のプロ野球で誰よりも実践したのは25年ぶりのリーグ優勝に貢献した広島東洋カープの黒田博樹投手(41)ではなかったか◆7年間のメジャー経験も踏まえ、投球術やマウンドでの心構えを伝え、若手の力を引き出した。「自分に厳しい人なので、姿を見ているだけで引き締まる」と2歳下の盟友新井貴浩選手も言う。「神ってる」快進撃はそれだけの理由があった◆高校時代は3番手投手で、努力でここまで来たという自負がある。2年前、メジャーの20億円のオファーを断って古巣に復帰した際は「この選択が正しいかどうか分からないが、僕自身が正解にしなければならない」と決意を語った◆日米通算203勝で引退する。日本シリーズで“球界の宝”大谷翔平選手を打ち取ったのが最後の投球となった。後輩に贈る言葉は「力はある。慢心するな」。数多くの名勝負を手本に残し、背番号「15」は永久欠番となる。(日)

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