「長崎ぶらぶら節」DVD発売中、5200円+税、発売元:東映ビデオ、販売元:東映

愛八直筆の歌本など

撮影の合間、見物人に笑顔を見せる吉永さんや渡さん=2000年6月、雲仙市の光泉寺(草野さん提供)

物語の舞台の一つ、史跡料亭花月の一室。実在した愛八も、この景色を目にしていたに違いない=長崎市丸山町

■花街照らす名芸妓の魂

 長崎市中心部の街を熱気に包んだ長崎くんちが終わり、秋の色合いが一気に濃くなった。季節の移ろいを肌で感じながら、飲食店がひしめく思案橋を通り抜け、丸山のエリアへ。マンションやビルが林立するが、史跡料亭花月や梅園身代り天満宮など、日本三大花街の一つと称された往時の面影も残っている。異国情緒とともに育まれた和の趣が、旅情を誘う。

 江戸幕府の鎖国政策の下、長崎は出島を通じ、海外に開かれた唯一の窓口だった。丸山の花街は国内外から集まる貿易商たちのおもてなしの場となり、歌や踊り、三味線で酒席を盛り上げる芸妓(げいこ)が活躍した。

 大正から昭和初期にかけて名をはせた丸山の芸妓、愛八が主人公の映画。吉永小百合演じる愛八の生涯を軸とし、郷土史家の古賀十二郎(渡哲也)と一緒に、長崎に伝わる歌を探して回る物語。

 愛八、古賀とも実在した人物で、映画では二人の純粋さが伝わってくる。家業を倒産させた古賀は、郷土史研究に没頭する理由を「金とは思い切って縁を切ったが、人間の誇りや尊厳は捨てきれない。長崎で生きて死んだ人の記録を残そうと思って」と明かす。そうした心意気に、愛八は「古賀先生のきっぷにほれたと」と率直に語る。また愛八は、以前から街角の花売り少女など、苦境の子どもに惜しみなく手を差し伸べていた。

 二人の交流は途切れ、歳月が流れ、映画の終盤、古くから伝わる「ぶらぶら節」を収録した愛八のレコードがヒット。レコードには古賀が作詞した歌も収録されたことから、愛八はかつて古賀に抱いていた恋心をよみがえらせる。

 原作の小説を書いたなかにし礼は、映画が公開された2000年の長崎市での講演で、執筆のきっかけを「愛八さんの歌を聴いた時、心をうたれる感動を覚えた」と語っている。秀でた芸妓だったようだ。

 映画では、大正時代の長崎くんちを再現し、精霊(しょうろう)流しや眼鏡橋など年中行事、光景も随所に盛り込んだ。長崎歴史文化協会理事長の越中哲也さん(94)は、なかにしが小説を書く際や、深町幸男監督がロケ候補地を視察した際に案内役を務め、精霊流しの場面にも出演。映画について「長崎の華やかさをよく表している」と語る。

 映画は観客動員100万人超の大ヒットとなり、花街の面影を失いつつあった丸山に再び脚光が当たった。愛八の足跡をたどるために訪れる人が急増し、説明板設置や碑の建立、梅園身代り天満宮の一般開放などの動きにつながり、地元にとっても歴史を再認識する機会となった。「薄暗い雰囲気の町から花街へとイメージアップする起爆剤になった」と丸山町自治会の山口広助会長(46)。

 天満宮では今月12、13日、花街文化を広める恒例の「丸山華まつり」が開かれ、花魁(おいらん)道中や芸妓による踊りの奉納がある。愛八がよく参拝していたとされる境内に立つと、静寂の中に三味線の音や歌声が今にも聞こえてきそうな気配。愛八の魂は今も丸山の町を照らしている。

■ストーリー

 「ぶら~り ぶら~り~と」。1883(明治16)年、歌を口ずさみながら、幼くして長崎近郊の村から丸山へ連れてこられた愛八。一人前の芸妓に成長すると、美しい歌声と厚い人情で人々に慕われた。愛八の歌声に感銘を受けた古賀十二郎から、長崎の歌の掘り起こしに誘われ、古老を訪ねては楽譜に残した。小浜で「ぶらぶら節」を聞いた時、幼い日に口ずさんだ曲と気付く。昭和に入り、愛八が歌うぶらぶら節がレコードで発売されることになった。出演はほかに高島礼子、原田知世ら。カラー115分。

■MEMORY 【小浜ロケ】直談判で実現

 長崎市丸山町の史跡料亭花月では現在、愛八直筆の歌本などを展示している。しかし撮影は同市だけでなく、雲仙市小浜町の光泉寺でもあった。長崎ロケの情報を聞き付けた小浜の人たちが東映の関係者に直談判し、小浜ロケを加えてもらったらしい。

 深町幸男監督らが下見の際に泊まった伊勢屋旅館(小浜町)のおかみ、草野有美子さん(61)によると、小浜ロケを知ったのは当日午前8時半。喜びを共有しようと防災無線で呼び掛けると、2時間後のロケは300人以上の人だかりに。吉永小百合らも声援に応えた。草野さんは、吉永を化粧直しの部屋に案内した時のことをよく覚えている。「きゃしゃな感じで、到着時に透き通るような声で『疲れちゃった』と言ったのが忘れられない。でも撮影に向かう際はきりっとして、さすがでした」

 深町監督からもらった監督の台本には「小浜でトル」と走り書きがあった。急きょ小浜ロケを決めたことが伝わってきて、みんなで感激したという。

このエントリーをはてなブックマークに追加