環太平洋連携協定(TPP)を巡る衆院審議が大詰めを迎えている。山本有二農相の不適切発言に野党側が強く反発する中、与党は近く衆院を通過させる構えだ。

 山本農相は一度ならず二度までも、失言を繰り返した。最初は、佐藤勉・衆院議運委員長のパーティーで「強行採決をするかどうかは佐藤さんが決める」と発言。これで謝罪に追い込まれたにもかかわらず、別のパーティーで今度は「冗談を言ったら(閣僚を)首になりそうになった」とふざけてみせた。

 その言葉からは、緊張感のかけらも感じられない。言うまでもなく、TPPで輸入関税が撤廃されれば、最も影響を受けるのは農業分野である。いったい、どれほどの影響が出てくるのか、日本の農業は将来的にも維持できるのか、食の安全はどうか-。国民の間には根強い不安がある。

 山本氏は農業分野を所管する立場にもかかわらず、国民の不安を解消するつもりはないようだ。強行採決で審議を無理やり打ち切ってしまえば、国民は置き去りにされてしまう。その重みを、山本氏は分かっていないのではないか。

 さらに問題なのは、山本氏が「JAの方は明日にでも農水省に来てもらえば、何か良いことがあるかも」と、利益誘導をほのめかした点だ。いったい、どのような「良いこと」があるのか。国内市場を開放するのと引き替えに、何らかの利権を渡すのかと勘ぐられても仕方ないだろう。

 こうした言動が飛び出す背景には、圧倒的に強い与党のおごりがあるのではないか。

 振り返ると、審議に入る前から「強行採決」という言葉が飛び交ってきた。9月末には自民党の福井照・衆院TPP特別委理事が「強行採決がんばる」と述べ、理事を辞任してもいる。安倍晋三首相は「結党以来、強行採決を考えたことはない」と釈明したが、その言葉とは裏腹に、4日の特別委員会で強行採決に踏み切った。

 なぜ、こうも急ぐのだろうか。

 米国では、TPPを推進してきたオバマ大統領の退任が近づき、次期大統領候補はクリントン氏もトランプ氏も反対の立場を鮮明にしている。日本政府としては、米国の批准を後押しするとともに、今後の再交渉に応じない姿勢をはっきりさせたいようだが、だからといって中身の審議をないがしろにしていいわけはない。

 国会の混乱で、他の審議にも影響が出てきた。地球温暖化対策の国際的な新枠組み「パリ協定」は批准が間に合わず、日本は第1回の協議に発言権がないオブザーバーでの参加となってしまった。

 与野党による厳しい対立が続くが、衆院通過をにらんで早くも国会の会期延長がささやかれ始めた。衆院通過後、自然成立する「30日ルール」で法案の成立を確実にする狙いだが、それでは参院をあまりにも軽んじてはいないか。参院の存在意義をもう一度考え直すべきだ。

 共同通信社の世論調査では「今国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」という回答が66・5%を占めている。いかに国民の不安が強いかという表れだろう。与党は強行採決を連発し、会期延長で自然成立を目指すのではなく、丁寧な議論に立ち返るべきではないか。(古賀史生)

このエントリーをはてなブックマークに追加