戦争の悲劇を二度と繰り返さないと誓った現行憲法の公布から70年を迎えた。時代の変化に応じた改正をすべきか議論する憲法審査会が10日から再開する。これまでと異なるのは、改憲の条件である「衆参各議院の総議員の3分の2以上」を、与党を中心とする改憲勢力が夏の参院選でクリアしたことだ。審査会の結論が国民投票で問われる可能性があるだけに、「改憲ありき」ではなく、慎重な審議を求めたい。

 憲法のどこをどう変えるかは明らかでない。改憲草案を持つ自民党が国政選挙で具体的な提案をしていない上、先頭に立ってきた安倍晋三首相が「党に任せる」と発言を控えているためだ。憲法審査会では改憲項目の絞り込みが最初のテーマとなりそうだ。

 1946年11月に公布された憲法は将来の改正論議を見据え、96条で改正要件を定めている。通常の法律は両院の過半数の賛成で改正できるが、憲法は「総議員の3分の2以上」とハードルは高い。

 続く97条は、憲法が保障する基本的人権は「人類の多年にわたる自由獲得の成果」であり、「過去幾多の試練に堪(た)へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託された」と歴史的意義を強調する。自由や権利が後退しないように「不断の努力」が国民に求められている。

 改憲を議論する前に、憲法が目指す人権尊重の理念は実現できているのだろうか。「格差社会」は進み、経済的な理由で進学をあきらめる若者も少なくない。過酷な労働を強いられ、自ら命を絶つ人が後を絶たない。問われるべきはこれまでの政治ではないのか。

 改憲を党是とする自民党の最終目標は9条を改正し、国防軍を憲法の中に位置づけることだろう。それだけでは国民の反発が予想されるから、大規模災害やテロを想定した「緊急事態条項」や、1県1議席を確保する「参院の地方代表者」など抵抗が少ないところから着手しようとしている。

 しかし、「緊急事態」を理由に、安易に基本的人権の制限を認めていいのか。また、「参院の地方代表者」は将来、合区が導入される可能性がある県にとっては望ましい改正かもしれないが、一票の重みという民主主義の根幹に関わる問題だ。9条改正の“露払い”として議論すべきではない。

 与党が改憲を必要と考えるなら、堂々と9条改正を提起すべきではないか。確かに戦力放棄をうたう9条2項と自衛隊の存在は矛盾するように見える。現実の国際情勢を考慮した条文改正も選択肢としてあってもいいだろう。

 ただ、9条の平和主義は70年間、手を加えなかったからこその重みがある。先の大戦の教訓を忘れないとのメッセージになる。

 自衛権と、武力を伴わない国際貢献を憲法解釈で認めた上で、条文を守るやり方もあるはずだ。日本人は9条と自衛隊の矛盾に向き合ってきたから、どの国よりも平和の意味を考え続けてきたいう逆説的な考え方もできると思う。

 共同通信社の世論調査では、改憲が「必要」「どちらかといえば必要」は計58%で過半数だが、安倍政権下での改憲には55%が反対する。そこに複雑な民意が垣間見える。答えを急いで出す前に憲法をもう一度読み直して、この国の原点を確認したい。(日高勉)

このエントリーをはてなブックマークに追加