米大統領選の開票でトランプ氏優勢が伝えられる中、1万7000円を大きく割り込んだ日経平均株価を示すボード=9日午後、名古屋市

 米大統領選で保護主義色の濃い共和党候補トランプ氏が勝利し、環太平洋連携協定(TPP)の漂流が現実味を増してきた。日米をはじめ世界の貿易、投資が縮小するとの懸念も強い。新政権がドル安志向を鮮明にすれば、円高圧力が強まって日本の景気や企業業績への懸念が深まる。財務省と金融庁、日銀は9日、緊急会合を開き、市場の動揺を鎮めようと協議したが、経済停滞への不安は続きそうだ。【共同】

 「米国第一」を掲げるトランプ氏は、米国に日本車が大量に流れ込んで雇用が失われるとしてTPPに反対してきた。TPPは経済規模が最大である米国の批准抜きでは発効しない。日本政府はオバマ政権の任期中に批准手続きが進むことに望みをつなぐが、関係者は「共和党議員は議会で賛成票を投じにくいのでは」と困難視する。トランプ氏の反対姿勢が変わらなければ、12カ国の合意は瓦解(がかい)の危機にひんする。

 トランプ氏はTPPに代えて日本など各国と個別に通商協定を結ぶ考えを示しており、オバマ政権がTPPで約束した自動車など工業品の関税撤廃を取り下げる可能性がある。TPPの停滞は欧州連合(EU)やアジア諸国との経済連携交渉にも影を落としかねず、安倍政権は通商政策の練り直しを迫られる。

 為替政策を巡っては、トランプ氏は日本を中国と並ぶ「為替操作国」とみなし、円安誘導していると批判してきた。こうした強硬姿勢を背景に、9日の外国為替市場では円相場が急騰。財務省の浅川雅嗣財務官は日銀との会合後に「市場で投機的な動きが出ている。動きがさらに継続することがあれば必要な措置を取りたい」とけん制した。

 ただ、新政権下で日本が市場介入に出た場合、関税引き上げなどの対抗措置を発動される恐れも消えない。「介入を自重するとの見方が広がれば円高が加速する可能性がある」(日本総合研究所の井上肇氏)。

 市場の乱高下で景気失速の懸念が強まった場合、日銀は追加金融緩和を視野に入れるほか、政府が財政出動で景気を下支えする局面も予想される。トランプ氏が求める「米軍駐留経費の負担増」を受け入れれば他の経費節減か国債増発を余儀なくされ、財政再建がさらに遠のくことになる。

 日本企業にとって、米国は最大の輸出相手国であり、投資による収益なども含めた2015年の経常収支の黒字額は約13兆3千億円に上った。トランプ氏の積極財政政策は米景気にプラスとの見方も一部にあるが「企業の投資が萎縮して貿易も縮小する」(日銀幹部)ことになれば、日本の「稼ぐ力」に打撃となる。

 円高は輸入価格の下落を通じてデフレ脱却に水を差すほか、輸出企業の業績下振れにつながる。繊維メーカー「セーレン」の川田達男会長兼最高経営責任者(CEO)は「リーマン・ショック以上のショックがあるのではないか」と漏らし、流通大手幹部は「国内外の景況感悪化が避けられない」と危惧した。

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