衝撃的な結末だった。米大統領選は、政治手腕が全くない実業家ドナルド・トランプ氏が大方の予想を覆して当選した。米国はどこへ向かうのか。世界中に波紋が広がっている。

 とにかく現状を変えたい-。米国民がトランプ氏に託した背景には、深刻な格差の拡大や、既存政治への失望がある。産業空洞化で衰退し「ラストベルト」(さびた工業地帯)と呼ばれる中西部で、トランプ氏が軒並み票を集めたのは、その表れだろう。

 だが、大統領に選ばれたものの、選挙中にトランプ氏が振りまいた過激な言葉の数々は、米国民の間に憎悪や不満をあおり、深い断絶を招いてしまった。当選後、慌てて国民に融和を呼びかけたが、具体的な政策で結果を出せなければ、さらに深い失望と怒りに結びつくかもしれない。

 「米国第一」を掲げていたが、その政策はいずれも保護主義的、孤立主義的で、内向きだ。メキシコとの国境に壁を造り、イスラム教徒の入国を禁止し、不法移民を強制送還する。経済政策にしても、民主党政権が主導してきた環太平洋連携協定(TPP)からは撤退するという。

 これまでの発言は選挙向けだったと割り引いたとしても、米国の外交戦略が大きく転換すると考えておくべきだ。

 気がかりなのは、日米同盟への影響である。オバマ政権は日米同盟を重視し、アジア地域の安定に貢献してきたが、トランプ氏は「在日米軍の駐留費用をすべて持たなければ撤退する」「日本や韓国は核武装すればいい」などと、日本を突き放すような発言を繰り返してきた。

 おそらくトランプ氏は日米同盟が果たしてきた意義や、その実態を十分に認識していないのだろうが、今後、日本側は安全保障政策の見直しを迫られる可能性も否定できない。

 米国を重視する日本の外交姿勢は時に「米国追従」という批判も受けてきた。例えば、先日の核兵器禁止条約をめぐる対応でも、唯一の被爆国にもかかわらず、米国の求めに応じて反対にまわった経緯がある。

 日本政府としては同盟関係はこれまで通り大切にしつつも、いかに独自性を保つか、この機会に見直しておくべきではないか。

 また、経済分野でもトランプ氏は保護主義に走る可能性が高い。その代表が、日本車に対する関税引き上げやTPP見直しだろう。

 アベノミクスはTPPを成長戦略の柱と位置づけてきたが、トランプ大統領の誕生で巨大経済圏が実現するかは怪しくなってきた。TPPに変わる、全く新たな成長戦略が必要になる。

 しかも、アベノミクスは円安をてこに、輸出産業を下支えしてきたが、為替政策の見直しも迫られそうだ。株式市場は大規模減税などへの期待感から株高・円安に動いているが、このまま円安基調が続くとは考えにくい。トランプ氏は「日本は円安に為替操作している」と批判しており、円高ドル安を目指すとみられるからだ。

 17日には安倍晋三首相がトランプ氏と直接会談する。米国をどこに導くつもりかしっかり見極めつつ、まずは日米同盟の重要性を認識するよう働きかけたい。(古賀史生)

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