2段になっている高台。底まで丁寧に青磁が施されている

水指の上部には、漆塗りのふたが収まる

光の陰影が際立つ唐花唐草文の陽刻

「青磁唐花唐草陽刻水指」

■品格、風格漂う「青」 陰影際立つ陽刻も秀逸

 江戸時代、鍋島藩の御用品として、藩直営の窯で生産された鍋島焼。色鍋島、鍋島染付、鍋島青磁の3種類があり、鍋島青磁は美しい青磁釉を器全体にかけて焼き上げている。今右衛門古陶磁美術館が所蔵する「青磁陽刻唐花唐草文水指(みずさし)」(佐賀県重要文化財)は鍋島藩窯の青磁を代表する逸品で、青磁釉の発色が良く、胴部の唐花唐草文の意匠も優れる。水指としては大ぶりで、類例は極めて少ない。その堂々とした姿は、藩窯品としての品格や風格を感じさせる。

 佐賀鍋島藩は1628年、有田町の岩谷川内に藩窯を設置。南川原町に移った後、75年には大川内山に移転した。鍋島焼の生産は1871年に佐賀鍋島藩が廃されるまで続いた。本作は元禄から享保年間(1690~1730年代)ごろの制作と推定されている。鍋島藩窯で最も完成度の高い製品が作られた盛期の優品だ。

 鍋島焼は時代によって、作風が異なる。18世紀前半以降、徳川幕府が相次いで倹約令や減少令を出し、諸藩からの贈答や礼物、献上品についても減らすことを命じている。このため鍋島焼は、染付と赤・緑・黄をぜいたくに使う色鍋島から、染付と青磁を主体とする落ち着いた作風へと変化している。

 鍋島青磁の原点は、化学的に調合された釉薬ではなく、大川内山に産出する天然の青磁鉱を砕いて作った釉薬にある。青磁釉は鉄分を1~2パーセント含んでおり、釉薬を器に何度もかけて還元炎で焼き上げることで、柔らかな光沢と潤いを生み出している。

 本作は、透明度が高く深みのある青の釉調を呈す。何度も重ね塗りをしたのではないかと思われるほど、厚く青磁釉が施されている。鍋島の中では珍しく茶の道具として作られており、その完成度の高さから、2002年に鍋島青磁としては初めて佐賀県の重要文化財に指定されている。

 水指の胴回りには押型成形による「唐花唐草文」の陽刻が施され、陰影を際立たせている。文様の凹凸を青磁釉により強調しており、凸部は釉が薄いため白っぽく見え、釉がたまっている凹部は濃い青になっている。

 鍋島焼は、大名道具としての品格と風格を保つために、器形や大きさなどたくさんの決まり事がある。器などの高台は高く、口径の10分の1ほどもある。また、規則正しく文様が施されており、1670年代以降は櫛歯(くしは)文が主流となる。一方、本作の高台は段になっており、文様は施されていない。

 同館館長で国重要無形文化財保持者(人間国宝)の今泉今右衛門さん(有田町)は「青磁の発色が良く、おおらかな雰囲気の造形になっている」と高く評価。陽刻についても「余白の取り入れ方など、絶妙な空間表現になっている。空間の見せ方などさらに勉強して、今後のテーマにしていきたい」という。

■データ

口 径 16.7センチ

底 径 13.7センチ

高 さ 19.7センチ

制作年 1700年前後

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