キューバで最も大きく、高度な医療を提供するエルマノス・アメイヘイラス病院。医療機器は日本製もある=ハバナ市内

■心臓移植でさえも無料

 スペイン植民地時代の、古い低層の建物が多いハバナ市中心部にあって、遠目でもひときわ目立つのがエルマノス・アメイヘイラス病院だ。25階建てのノッポビル。キューバ最大で、最も高度な医療を提供している。フィデル・カストロ前国家評議会議長の肝いりで、1982年に開院した。

 私たちを迎えてくれたのはフアンカルロス・ロドリゲス医師。「この病院の医師はほとんどが国際的な博士号を持っており、最先端の技術で、難しい患者を国中から受け入れている」。知的な風貌の医師は熱っぽく病院の役割を語る。

 規模は650床あり、約300人の医師、約800人の看護師が働く。心臓病センターとして定評があり、心臓移植も行う。「がんとそれに関連する難しい外科手術を数多く手掛けている」と胸を張る。

 説明の途中、ふと見た壁のモニターにはフィデル・カストロ氏が映っていた。病院の落成式での演説のようで、「この施設は特別だ。医療発展のモデルである」と字幕が流れる。

 話はこの病院からこの国の地域医療の実情に移った。キューバの初期医療(プライマリー・ケア)のシステムは独自のものである。1人の医師が1人の看護師と組み、約120家族を診る家庭医の仕組みができているという。

 医師が患者の家を訪問し、リスク要因を見つけたり、子どもや高齢者に指導をしたりする。「家庭医の上部に地域診療所があり、そこで治療できない場合はさらに上の病院や研究所に患者を回すようにする」とロドリゲス医師は言う。

 人口千人あたりの医師数は6・7人(日本は2・2人)。おかげで平均寿命は男女平均で79歳。乳児死亡率と併せて、先進国と遜色ない水準にある。

 医療費は無料だ。心臓移植でさえもタダという説明に、驚いてしまった。患者は外来でもらう薬の代金を払うだけ。医療費総額は国家予算の20%以上を占める。少々心配になるが、この国の指導者の「命より大切なものがあるのか」という声が聞こえてきそうだ。

 加えてキューバは100カ国以上に医師を派遣している。医療の輸出だ。それに対価を支払う国もあれば、キューバが無償で医療を提供する国もある。そのため、医師を養成する教育システムも充実している。

 現在のキューバの柱は教育と医療の無料化にある。社会の安全網というべきで、「崩せない2本柱」だ。それが国民の安心感につながっている。

 ■キューバ革命 1956年、フィデル・カストロ氏が亡命先のメキシコから帰国。1959年1月、実弟のラウル国家評議会議長やアルゼンチン人のチェ・ゲバラ氏らとともに親米独裁政権を打倒する。社会主義路線をとり、旧ソ連と接近。米国とは対立し、今も一部の経済制裁は続く。

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