日本とインドが原子力協定に署名した。核拡散防止条約(NPT)に加盟していない核兵器保有国インドへ向けて、日本から原発を輸出する道が開かれる。

 原子力協定は、日本が輸出する原発の技術や資機材を「平和目的」に限定するのが狙いだ。今回の別文書には「インドが核実験を行えば、日本側は協力を停止する」という文言も盛り込まれた。

 急激な経済成長を続けるインドは慢性的な電力不足に陥っており、人口13億人のうち、3億人がいまだに電気がない暮らしを強いられている。海外企業が進出しようにも、電力インフラの貧弱さから足踏みするケースも出始めた。インドでは原発21基が稼働しているが、いずれも規模が小さく、発電能力を大幅に引き上げる必要があるという。

 インドの経済成長をいかに取り込むかは、日本経済にとっても課題だ。安倍政権は「質の高いインフラ輸出」を成長戦略に据え、トップセールスで売り込んできた。その努力が実り、インドは西部地域の高速鉄道計画で日本の新幹線方式の採用を決めている。

 日本とインドが関係強化を進める背景には、経済的な利益だけでなく、台頭する中国をけん制する狙いもある。

 中国を挟んで東西に位置する日本とインドの安全保障環境は似通っている。中国はインド洋の周辺国に港湾拠点を築いていく「真珠の首飾り」戦略を進めるなど覇権主義を鮮明にしており、インドも中国を脅威と捉えているからだ。

 昨年、日印両国は防衛装備品の輸出を可能とする協定を結び、米国とインドの海上合同訓練に日本も海上自衛隊の護衛艦を派遣している。

 先日の米大統領選ではトランプ氏が当選し、米国がアジア重視戦略を見直し、対中国で軟化する可能性も出てきた。このタイミングで日本とインドが関係を強化する意味は大きい。

 気がかりなのは協定を結んだとはいえ、インドが「核開発は自国の権利」としてNPT体制への参加をかたくなに拒んでいる点だ。日本の原子力技術が軍事分野に転用されるのではないか、あるいは平和利用に限ったとしても、そこで生まれた余力が核兵器開発に振り向けられてしまうのではないか、と懸念は拭えないからだ。

 被爆地・広島、長崎からは強い反発の声が上がっている。これまで4回にわたって、協定交渉の中止を要請してきた長崎市の田上富久市長は「被爆地として極めて遺憾」とした上で、政府に対して「諸国と連携して『核兵器のない世界』の実現に向けたリーダーシップを」と求めている。

 平和利用に限るとする協定の趣旨をいかに担保するか。さらに踏み込んだ枠組みが必要だろう。

 もう一つの懸念は、原発そのものの安全性である。東京電力福島第1原発の重大事故をきっかけに、日本国内では原発の安全性をどう高めるか、議論が続いている。インド国内では、日本の原子力規制委員会に当たる安全性を審査する機関はないようだ。運営面も含めた安全性が課題になる。

 平和利用に限ってきた被爆国としての立場を堅持しつつ、いかにインドの発展に貢献して関係を強化していくか。さらなる知恵が求められる。(古賀史生)

このエントリーをはてなブックマークに追加