辛くて刺激的な香辛料といえば、サンショウやコショウ、そして比類のない辛さのトウガラシがある。トウガラシは、原産地の中南米から500年の間に世界中に広がり人々を魅了した◆実は人間の舌には辛みを感じる感覚はなく、痛覚がそれを感じとる。トウガラシを食べると、痛みのもととなる物質を早く無毒化しようとして胃腸を活発化させるのである。辛み成分で体に異変を感じた脳は、脳内モルヒネと呼ばれる物質を分泌。これは鎮痛作用があり、疲労や痛みを和らげるから、人に快感をもたらすとされる。クセになる辛さというのはこれだ◆人はその刺激に陶酔し、より強いものを求める。米国の次の大統領になるトランプ氏の演説は、まさにその現象のようだった。連発された過激な発言は、貧富の格差にあえぐ人やグローバル化で職をなくした人、かつての偉大な米国を夢みる人たちの心を刺激した◆しかし選挙後、トランプ・ショックのあおりで抗議デモが続いている。1票を投じて胸のすく思いの人がいる一方で、刺激ある発言は刃のように人を傷つけ、分断が顕(あら)わになった。「終わったから一致団結しよう」というわけにはなかなか◆一転慎重のトランプ氏。自らの過激発言の無毒化に懸命のようだが、一度口にした刺激は、そう簡単に国民の頭から消し去れまい。(章)

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