ハバナ旧市街で外を見つめる女性。小さな社会主義国に変革の波が来ている

■理想と現実にギャップ

 緑の葉に赤い花が鮮やかな火炎樹の通りに面したハバナの日本大使公邸。革命前は富豪の邸宅だったという白亜の建物で、渡邉優大使らが私たちを迎えてくれた。

 大使との懇談で話題になったのはキューバの行く末だ。米国の経済制裁が続いているが、全面解除の日がくれば、人もモノも押し寄せ、平等政策や人道主義などキューバの美徳が失われる恐れもある。

 「この国はまさにそこで悩んでいる」。そう言う大使はこんな話をした。労働者の賃金の額は職種で決まっている。それではみんな働く意欲が湧かない。能力給や成果給を入れるなど賃金改革もできていない。大胆な変化には「不安が先立つのだろう」と分析した。

 今春、5年に1度の共産党大会が開かれ、中国やベトナムのような改革開放にかじを切るか注目されたが、今の政策を継続することを決めた。外資には期待はずれだった。

 フィデル・カストロ氏の実弟、ラウル・カストロ国家評議会議長は「この先、どこかの国をまねることはない」と言っている。

 米国と関係を改善したのは、そうしないと国が立ち行かないと考えたからで、それが米国主導で進むことには警戒感がある。経済改革など必要なところだけ「いいとこ取り」をして、あとは従来の社会主義を維持しようとしているように見える。

 もっとも、政治的反体制派への弾圧など人権問題が障害となり、米議会が経済制裁を解こうとしない現実も残る。トランプ次期米大統領は政治的な自由を国民に保障しなければ、オバマ大統領が進めてきた関係正常化を覆す可能性もある。

 キューバでは革命を知らない世代が人口の7割以上を占めるようになった。押し寄せる資本主義の世界に気づいてしまい、海外への人の流出が止まらない。一説には年間10万人近くが国外に出ているともいわれる。

 「だれもが平等で、充実した福祉国家をつくる」とするフィデル氏の理想と、経済難で生じる現実とのギャップは少しずつ広がる。「この国は90歳と85歳のカストロ兄弟が死なないと変わらない」。キューバに詳しい日本の経済人の言葉も説得力がある。

 ここを9月に安倍晋三首相が訪問し、投資を拡大することで合意した。貿易を多角化したいキューバにとっては渡りに船だ。親日的で、途上国のリーダー格である国と経済的、政治的な関係を強化することは日本の国益にもかなう。

 大国のパワーバランスの中をしたたかに生き抜いてきたキューバの人たち。旅をしながら、この国らしい独自の発展を遂げてほしいとの思いは強くなるばかりだった。

■キューバの影響力

 キューバは北朝鮮の伝統的友好国。アフリカ諸国に影響力があり、日本はかつて西側最大の貿易国。キューバは多国間外交に強く、日本にとっても対話は重要。

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