政府はアフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する陸上自衛隊に「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」の新任務を与える。集団的自衛権を盛り込んだ安全保障関連法にもとづく初めての任務だ。ただ、南スーダンは内戦状態といわれ、武装集団への応戦が迫られる危険な事態も起こりうる。これまで他国で1発の銃弾も撃たず、犠牲者を出すことがなかった自衛隊にとって大きな転機を迎える。

 日本は1992年にPKO協力法が成立して以来、カンボジアやゴラン高原、東ティモールなどに自衛隊を派遣している。拳銃は自衛手段のため所持するが、任務の中心は道路や橋などのインフラ整備、救援物資輸送など紛争国の復興支援で、他国の部隊が担う治安活動とは一線を画してきた。

 それが来月始まる新任務で、国連職員やNGO(非政府組織)などの民間人が襲撃された場合、現場に駆け付けて救助できるようになった。威嚇や警告目的の射撃が認められ、身の危険が生じたときには正当防衛や緊急避難を理由に襲撃者を撃つこともできる。

 また、武装集団がPKO宿営地を攻撃した場合は他国の部隊とともに行動できる。安倍政権は積極的平和主義を掲げるだけに、政府や与党関係者は「自衛隊は特別扱いを受けてきたが、ようやく国際標準に近い形となる」と意義を強調する。

 とはいえ、最初の現場が南スーダンというのはどうだろうか。同国は2011年にスーダンから分離独立する形で建国したが、異なる二つの民族が大統領派と前副大統領派に分かれ、内紛を繰り返している。

 今年7月にはPKOの宿営地もある首都ジュバで両派が衝突し、300人近くの死者を出した。兵士による住民への略奪行為も起きている。周辺国や米国は国連に武力介入部隊の投入を要請しており、もはや、どの国が見ても、日本のPKO参加条件である「紛争当事者の停戦合意」が保たれているとは言えないだろう。

 それでも、日本政府は7月の武力衝突を「発砲事案」という。自衛隊の活動継続のための矮小(わいしょう)化にしか聞こえない。安倍首相は「安全で有意義な活動が難しければ、部隊の撤収を躊躇(ちゅうちょ)することはない」と国会答弁しているが、「派遣ありき」の前のめりの姿勢で、冷静に判断できるのだろうか。

 PKOは紛争国の安定化に欠かせないが、活動内容は変質した。きっかけは100万人規模の犠牲者を出したルワンダの虐殺を国連が防げなかったことだ。今は住民保護や人道主義の見地から武力行使をいとわないという。

 政府は「駆け付け警護」と「宿営地共同防衛」だけ、活動範囲は「首都とその周辺」だけとしているが、想定外の事態は常に起こりうる。PKO宿営地に逃げてきた住民を追って、武装集団が押し寄せたことも過去にあった。自衛隊が本格的な戦闘に巻き込まれる可能性は否定できないはずだ。

 憲法が海外での武力行使を禁じていることを考えれば、紛争国への関わり方には制約がある。まだ国民の議論は十分と言えない。政府の実績づくりのために憲法の戦争放棄の精神がなし崩しになったり、自衛隊員が危険な状況に置かれてはならない。(日高勉)

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