年金を受給できない人を救済するために、受給資格として必要な加入期間を現行の25年から10年に短縮する改正年金機能強化法が成立した。来年10月から新たに64万人が年金を受給できるようになる。しかし、これだけで高齢者の貧困問題が解決するはずもなく、老後のセーフティーネットの議論をさらに進める必要がある。

 現行制度では保険料を納め続けても、加入期間が25年に満たなければ、老後に年金を受け取ることができない。勤務していた会社の倒産や離婚などで納付を中断した人もそうだ。新制度は不公平にならないように、年金加入が10年以上なら、期間に比例した額を受給できる仕組みとなる。

 国民年金の場合、40年間の満額納付で月約6万5000円を受給できるが、10年加入なら月1万6000円、20年なら月3万2000円にとどまる。制度上は10年加入で年金はもらえるが、それだけで老後の生活をまかなうのは難しい。できるだけ満額で受給できるように、保険料の継続納付を国民に呼びかける必要がある。

 年金加入は義務づけられており、制度上は無年金は発生しない。しかし、会社員の厚生年金や公務員の共済年金が給与から天引きされるのに対し、農業や自営業者、アルバイトなどが加入する国民年金は自分で納付手続きをしなければならない。厳しい生活の中で年金保険料の支払いを後回しにする人は多く、深刻な無年金問題の土壌になっている。

 「年金」という言葉に、若者はまだ遠い先のことと考えているかもしれない。しかし、20歳からの継続加入で満額受給できることを考えれば、若者も自分が当事者であると認識してほしい。

 長引く景気の低迷で非正規雇用が常態化している。非正規でも一定時間働けば、国民年金より受給額が多い厚生年金に加入できるが、毎月の手取りが減るケースもあり、生活の厳しい人たちは判断に迷っている。

 将来の経済的な不安から結婚や出産をあきらめる若者は多く、少子化への悪循環となっている。年金を含めた社会保障制度を維持していく視点からも、政府や企業は正規雇用を増やす取り組みに本腰を入れなければならない。

 本来なら無年金への救済制度は2015年10月から始まっていた。財源として予定していた消費税増税が2度も先送りとなり、2年遅れた実施となる。ただ、増税は今も実施されておらず、確実な恒久財源がないままでの見切り発車となってしまっている。

 2度の増税先送りはどちらも国政選挙直前に決まった。政局優先の政治が社会保障制度の根幹を揺るがしていないか。国民に年金保険料納付を求めるなら、政治がまず、少子高齢化の難題にどう向き合うか、未来の姿を責任を持って示すべきだ。

 制度改正で受給資格が拡大しても、26万人は加入期間が足らずに無年金のままという。保険料を支払ってこなかった個人の責任は当然ある。ただ、生活保護世帯の50・8%にあたる82万世帯が65歳以上の高齢者世帯という現実がある。私たちはこれまで高齢者の貧困問題と真剣に向き合ってきたのかという自問も必要だろう。人生の最後が報われない社会というのは悲しすぎる。(日高勉)

このエントリーをはてなブックマークに追加