安倍晋三首相がトランプ次期米大統領とニューヨークで会談した。海外の首脳とトランプ氏が会うのは初めてとあって世界的な注目を集めたが、「友好ムード」でのスタートとなった。

 トランプ氏は選挙中、在日米軍の駐留経費を日本側がすべて負担するよう求めたり、日本の核武装を容認するなど、これまでの同盟関係を見直すかのような発言を繰り返してきた。

 会談後、安倍首相はトランプ氏とのやりとりを具体的には明かさなかったものの、「信頼できる指導者だ」と評価した。これから個人的な信頼関係を構築しようとする狙いからすれば、まずまずの滑り出しと言っていいだろう。

 トランプ氏が無難な外交デビューを飾ったとみて、東京株式市場の株価も一気に上がったが、これで安心するのは早計だ。

 在日米軍の駐留経費の問題にしても「不公平だ」と繰り返し批判しており、今後、何らかの要求を突きつけてくると考えておかねばならない。安全保障分野にまで金銭取引を持ち込む発想はビジネスマンらしいのかもしれない。だが、アジア地域の安定が自国の利益にもつながっているという基本的な認識に欠けているとしか思えない。

 そもそも、ドイツや韓国などの同盟各国に比べて、日本の費用負担だけが突出しているという現実がある。例えば、ドイツは年間1800億円、韓国は1千億円規模を負担しているが、日本は「思いやり予算」まで含めると7600億円規模と非常に大きい。

 なぜ日本だけが、これほど大きな負担を引き受けているのか。実態を無視した引き上げ要求に対しては、日本政府は毅(き)然とした姿勢で応じるべきだ。全額負担など論外であり、この機に逆に引き下げを交渉すべきではないか。

 また、経済分野でも、トランプ氏の保護主義的な姿勢が気がかりだ。

 自由貿易によって産業が流出し、雇用が奪われ、米国の利益を損なっているという言い分には首をかしげざるを得ない。むしろ、米国はグローバル化とともに経済成長を遂げてきたはずだ。保護主義的な政策に転じれば、米国の成長は妨げられるだろう。

 環太平洋連携協定(TPP)にしても、トランプ氏は「就任初日に脱退する」と公約しており、TPP参加国の中には米国に見切りをつけて「米国抜き」で発効させる案も出始めた。11カ国で発効させて、米国の参加を促そうという思惑もあるようだが、米国抜きでも日本の国益につながるのか、慎重に見極める必要がある。

 大統領戦後、トランプ氏は別人のように穏やかなふるまいに変わった。だが、その姿だけで現実路線に転じたのだと受け止めるべきではない。閣僚人事などを見ると、人種差別的な人物を重要ポストに起用しており、トランプ色は払しょくされていないからだ。現実味に欠け、暴言に近い「公約」にしても、ほごにすることは当選へと押し上げた支持層が許すまい。

 この先、トランプ氏の政権運営が現実路線に転じるかは、議会・共和党が鍵を握る。日本政府としてはトップ会談と並行して、共和党を含めた重層的なパイプづくりを急ぐべきだろう。(古賀史生)

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