繁殖農家の供卵牛から受精卵を取り出す全農の獣医たち=唐津市鎮西町のJAからつ鎮西地区肉用牛集出荷施設

■繁殖農家、収入増も期待

 唐津市鎮西町にあるJAからつの肉用牛集出荷施設で18日、繁殖農家が所有する母牛31頭から複数の受精卵を採卵し、そのまま111頭の乳牛や和牛に移植するプロジェクトが始まった。繁殖農家には子牛販売以外の新たな収入源になるとして関係者の期待を集めている。

 繁殖農家は高齢化が進み、戸数減による子牛不足が子牛の高値を招き、肥育農家の経営も圧迫。繁殖農家の経営安定は和牛全体の生産振興になる。受卵牛となる乳牛を飼う酪農家にも子牛販売が収益増につながる。

 プロジェクトでは、約21日周期の発情に合わせて、供卵牛にホルモン剤投与(過剰排卵処理)をすれば、一度に排卵する卵子の数を増やせることに着目。そこに種牛の精液をかけ、着床前の受精卵を取り出せば、1頭から複数の受精卵を作り出せるという。

 この日は受精卵移植(ET)で高度な技術を持つ全農ET研究所(北海道)の獣医たちが同施設を訪れ、採卵と移植を始めた。19日まで2日間の作業で、乳牛73頭、和牛29頭、交雑種9頭に移植。農家の牛でこれだけ大規模に受精卵の採卵と移植を同時に実施するのは国内初となる。

 これまで県内では、県畜産試験場の供卵牛からETで乳牛などに和牛を産ませてきた。全農も所有する供卵牛から凍結した受精卵を供給しているが、全国的な子牛の減少をカバーできず、昨年5月にJAグループ佐賀に「農家の牛を使った採卵(農家採卵)ができないか」と持ちかけた。

 JAからつは県内の主産地で、昨年12月から農家採卵の試験を計5回実施した。供卵牛80頭から過剰排卵処理で取り出せるとされる平均10個よりも多い11・1個の受精卵を採取。受胎率が落ちる夏場の今年8月には5頭の受卵牛に生移植してすべてで受胎し、大規模実施に踏み切った。

 受精卵は1個3万~5万円するため、平均的には1度に30万~50万円の収益になる。別途、ホルモン剤や生移植できない場合の凍結費用が必要だが、唐津市肥前町の繁殖農家古河寛明(のりあき)さん(34)は「今は子牛は高いけど、いつかは下がる。受精卵の販売は経営の一つの柱になり、規模拡大につながる」と期待を寄せる。

 牛は1年1産で、産後2、3カ月後に採卵する計画。母体へのダメージが気になるが、JAからつ畜産課の美間坂利明課長(46)は「採卵でかえって飼養管理の徹底が図られ、その後の受胎率もいい」と話す。

 移植の結果は約1カ月後に分かり、6割以上の受胎で成功とみている。JAからつでは今後も定期的に実施していく。

 17日には佐賀市富士町のJAさが第1実験農場でも採卵と移植が実施された。

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