白磁に梅模様が華やかな硯。墨がすりやすく、気持ちも和むという=三養基郡みやき町原古賀のアートクラブ

遊び心あふれる堤さんの文字アート作品

絵手紙などの文字アートの指導をする「アートクラブ」代表も務める堤菊世さん

■白磁の硯 息子から応援の気持ち

 重宝している白磁の硯(すずり)は6年前、母の日にプレゼントしてもらったの。普段から筆や画材を贈ってくれる長男の啓祐※(47)が有田陶器市で買った品でね。自分のものだけでなく、私へのお土産も忘れなかったみたい。「硯を見たとき、母さんの顔が浮かんだ」って、うれしいことを言ってくれてね。

 夫が亡くなる前は、有田陶器市に毎年行っていたの。今は息子家族がよく足を運んでいる。幼いころ、おじいちゃんやおばあちゃんに連れられて行っていたから、習慣になったみたい。子どものころはリュックを背負わされて、その中にたくさん掘り出し物を入れて持って帰ってきていた。

 私は絵が好きで、子育てが一段落した30年ぐらい前から書や日本画、水墨画、水彩画を習い始めたのよ。60歳をすぎてからは、教えてもらっていた先生の勧めで、久留米市総合美術展に出品するようにもなった。

 硯をもらった当時、制作していたのは水墨画。50号の大きな作品で、墨をする作業が何より大変だった。硯は真っ白で本当にきれいだったから、最初は何だかもったいなくて使えなかった。でも、「せっかくだから」と使ってみると、すごく早く墨をすることができて、とっても驚いた。それまでは2時間ぐらいかかっていたのが、半分ほどに短縮できたの。

 今は水墨画を描くことは減って、絵手紙なんかにこの硯を使っている。市販の墨汁は手軽だけど、私は墨をすったときの香りがとても好き。水墨画では「墨に五彩あり」と言って、濃淡で色彩を表現するけれど、この硯で作った墨汁はそれができる趣がある。絵手紙教室の生徒さんに紹介したら好評で、買い求めた人が何人もいた。

 硯の隅に手描きで施された薄紅色の梅の花も気に入っているの。私は梅の楚々として派手ではないところがとても好きで、花が咲く季節には太宰府や久留米の梅林寺に行くのよ。

 息子が、硯の優れた機能や、私が梅が好きなことを知っていたかどうかは分からないけれど、結果的に親孝行になっている。

 夫は生前、水彩の色鉛筆を贈ってくれた。そして息子は硯。2人が私の絵や書の活動を認めて、応援してくれている気持ちがうれしいし、幸せに思うわ。

=余録= 運命の出合い

 堤菊世さんの息子の啓祐さん=三養基郡みやき町=も焼き物好き。2年に1度は妻や息子と一緒に有田陶器市を訪れているという。啓祐さんにとっても硯との出合いは運命的だった。

 陶器市では東側の上有田駅から西側の有田駅まで、3キロの間に約150店舗の焼き物店が並ぶ。東から西へゆっくり品定めをしながら歩くのが啓祐さんの例年のコースだ。“終着点”の有田駅前にあった書道具のコーナーで、白磁の硯が輝いて見えたという。「母の日の前だったし、一目見て『これ、よかっちゃなかろうか』と感じた」

 絵や書に打ち込む菊世さんの姿を見て、「よくやるなぁと感心している。教室をやっている間は健康的にも大丈夫」と啓祐さん。母親をそっと支えている。

※啓祐さんの「祐」は示ヘンに右

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